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第8話

そうよ、なんで私なんかを?

私だってわけが分からないよ。

高校生の時に初めて彼に出会った。緒方章は私の学校の優秀な先輩で、後輩たちから招待されて母校に演説にやってきた。

国旗の下に立ち、彼の目はキラキラと輝いていた。大学生特有の青春と、いくぶんか幼さを失った大人っぽさが無数の後輩たちを虜にしていた。

もちろん、私も彼に魅せられた一人だ。

でも、彼は空に輝く月で、私は地面の土の上。そんな私たちが交友関係を持てるなんて絶対にありえない話だった。

しかし、思いもよらないことが起きた。

なんと彼のほうから私に近づいてきたのだ。

私が大学に受かったあの日。

私は彼と同じ大学を受けると彼に約束していたが、父から志望校を変えるように言われたのだ。両親は私が合格できずに一家が恥をかくのを恐れていたからだ。

私は両親を満足させられる学校に行くしかなく、入学初日にがっかりしてその学校へと向かった。

すると大学の入口で、ぴしっとスーツを着こなした彼が待っていた。

数年前と比べて、彼はもっと大人になっていた。

彼は大人になった。そして、それは私のほうも同じ。

この時の私も彼同様に大人っぽく成長していた。

彼は私が希望していた大学を受けられなかったことを知り、わざわざ私のために慰めに来てくれたのだ。

私はとても感激した。

それから、だんだん彼とは親密な関係へとなっていった。

でもずっと私たちの関係をはっきりとさせていなかった。

なぜなら私は鬱病を患っていたから。

大学生になってからというもの学業のストレスも緩和され、透明人間扱いされる家にもいる必要はなくなったというのに不思議なこともあるものだ。

病状はさらに悪化していった。

その感情の中で、私は得るのも失うのも怖くて親しい人に近づいたり、また急に遠ざけたりするようになっていた。

これは緒方章にとって、辛いものだっただろう。

結局、彼に正直に話した後。

彼は私から離れることを決めた。

彼に再び会った時には、彼はもう姉の婚約者になっていて、私に気を遣い、疎遠になっていた。

そして私も不自然に口角を上げ、一言こう呼ぶしかなかった。

「お義兄さん、こんにちは」

私たち二人は二度と交差することのない平行線上に立ってしまった。

私はこう思っていた。

彼はもうさっさと私のことなんて忘れて
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