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第3話

母は警察官に姉と父には連絡しないようにと言った。

そして自分から彼らに電話をかけた。

彼女の声は震えていて、できるだけ平然を装おうとしていた。

まず彼らにここ数日私を見かけたかどうかを聞いた。それから私についての情報が得られたみたいだと話した。

それから、数日前に警察からかかってきたあの電話についても話し始めた。

「あれは嘘なんかじゃなかったわ。桃香、あの子はもしかしたら本当に……」

「死んだ?」

父は軽蔑したような態度を見せた。「ただの身分証だろう。あの子はあんなにバカなんだから。うっかり落として誰かに拾われたんだろう。あの子が本当に死んだのなら、どうせ身から出たさびだろう。同情する余地なんかない!」

彼は私が小さい頃から言うことを聞かない子供だったと話しはじめた。

また、私が大人になってからいつも反抗していたとも言った。

彼の時間はとても貴重だから、一秒でも無駄にできないらしい。

そう言いながら電話を切った。

一方、私の姉はというと。

話を聞いてしばらくの間黙り、優しい声になって慰めの言葉をかけた。「鑑定結果はまだ出ていないんでしょ?もしかしたらお父さんの予想通りかもしれない。たまたまその亡くなった人が桃香がなくした身分証を拾ったのかも」

どのような場合でも、姉はいつも優しい美人さんだ。

それは今も例外ではない。

姉はタクシーを呼び、すぐに母のところまでやってきた。

一体誰を説得したいのか分からないが、母を抱きしめた時、姉のその声は疑い混じりのものから確信へと変わった。

「絶対に桃香じゃないわよ、お母さん。絶対に違うわ」

母は無表情でしきりに頷き、姉の言葉を繰り返した。「絶対に違うわ。あの子はとっても怖がりなんだから。普段少しでも暗くなったら出かけたくないとか言ってたし、そんな子が夜中12時に夜道を歩くわけなんかない。それに……」

バーに行って羽目を外すなんて。

わざと大げさに言って驚かせているとしか思えない。

しかし鑑定結果は嘘をつかない。だから彼女たちのそんな幻想は結果が出るまでのものだ。

そして結果が出た。

この死体は私だ。

まるでネズミのように度胸のない私だと確定した。ある日突然、このように普段と違うことが起こった。それにこの非日常によって……

彼らは逃れることができなくなった。

「お母さん、桃香、あの子本当に死んだんだ……」

誰もこうなるとは思っていなかった。真っ先に泣き出したのは、さっき一番落ち着いていたあの人だった。

姉は母の手をぎゅっと握り締め、瞳に驚きと恐怖の色を浮かべ首を横に振り続けていた。

「どうして、どうしてこんなことに?数ヶ月前は何事もなかったじゃない」

母は声を出さずに泣いていた。もはや一言も話すことさえできなかった。

そうよ。

どうしてこんなことに。

ただ家出しただけじゃないの?

私だって初めてやったことじゃないのに。

どうして今回は、死んでしまったの?

彼女は信じなかった。確定した結果が更に彼女をそうさせた。

彼女は父に電話をかけて、全力で私を探し出すように言った。こうすれば、かすかな希望が掴めるような感じだったのだ。

しかし、父はとてもうんざりし、彼女の気が狂った様子に怒り叱りつけた。そして、口を開けば私の責任だと罵った。彼は絶対に先に謝ることなんてしない、必ず私から謝らなければならないのだ。

「でも、桃香はたぶんもう……」

母は嗚咽を堪えながら、その続きの言葉を口にする勇気はなかった。

「死んだわ」

姉がそう言った。

彼女は母から携帯を受け取ると、かすれた声で父に向かって繰り返した。「お父さん、桃香はもう死んだわ。もう二度とあなたに謝ることなんかできない」

永遠の。

永遠の別れになったのだ。

一言一句がとても現実味を帯びている。

場の空気は静まり返って恐ろしかった。父はまるで呼吸すらも止まったかのように静かだった。

彼はずっと姉のことを大事にしていて、一度も厳しい言葉を投げたことはない。

しかしこの時、フルネームで彼女の名前を呼び、怒鳴りつけた。

「花岡桜子、おまえ花岡桃香とグルになっておかしな冗談を言うんじゃない!私が許すとでも思っているのか。夢でも見ていろ!」

人間って時に、本当におかしな生き物だと思わない?

母が私が死んだかもしれないと言った時、父は半分は信じていた。

私が本当に死んだと分かったらどうなった?

逆に一文字も信じなくなったわ。

でも、彼が信じるか信じないかは別として、死んだという事実は彼らの考えで変えられるようなものではないのだ。

私は本当に死んだのよ。

もの凄く残酷な死に方でね。

彼らも私の死体を連れ帰って埋葬することもできないほどに。警察は世間をぞっとさせるような大事件を解決するため私の死体を解剖しないといけないのだ。

やっと母は耐え切れなくなり、携帯を取り返して大声で泣き叫んだ。

「花岡隆史、他人も自分も騙そうとしないでよ。桃香は本当に死んだの。呼吸することもできないのよ!

あなたのせいよ。あなたがあの子を好きでもない男と無理やり結婚させようとしなければこんなことなかったんだわ。あなたがあんなに独断で横暴だったから。あなたがあの子を家出にまで追い詰めたせいでしょ!

もし彼女が家にいれば、夜中に出かけるような真似はしなかった。それならこんな事には……ううう、私の娘が。あの子はまだ若いの、まだ20歳だったのよ……」

はじめは父への糾弾。

そして最後には形容しがたいほどの悲痛な叫びへと変わった。

母はすぐにでも辛さを発散できる相手が必要で、この時私が死んだことを頑なに信じない父にちょうどその矛先が向かった。

一方、私の父はと言うと。

誰も彼が一体何を考えているのか分からなかった。

母と姉は母が泣き終わってから、父が冷たい声で質問してくる声を聞いた。

「おもしろい冗談だな。俺はただあいつのためを思ってやったことだ。あいつがちゃんと言うことを聞いていれば、こんな目には遭わなかったんだぞ!?」

彼は絶対に自分のせいだと認めなかった。まるで急いで自分の責任を誰かに押し付けているようだった。

母と同じように。

でも、彼は知らなかった。

もし殺されなかったとしても、私はあの日の夜、結局は死んでいたのだ。

私はおとなしく誰かに従うような、かりそめの人生など早々に送りたくないと思っていたのだ。

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