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第60話

 「周村さん、正直に言いますと、あなたの心筋炎は五年前に完全に治っていませんでした。

 その結果、後遺症が残り、それが体内に潜伏して心臓血管に突発的な問題を引き起こしていたのです。

 これは冠状動脈性心疾患ではありません!」

 真一がそう言った。

 一郎ははっと悟った。「なるほど!

 それじゃ、治せるのかい?」

 「はい、先ほど鍼灸を行った際に、すでにその後遺症を取り除きました。今から処方箋を出しますので、これを一週間続けて服用すれば、病気は完全に治るでしょう」

 一郎はボディガードに紙とペンを用意させ、真一はすらすらと処方箋を書き上げて一郎に手渡した。

 「真一、本当にありがとう。この恩をどう返せばいいか……

 この小切手は僕の気持ちだ。診療費として、どうか受け取ってくれ!」

 一郎は感謝の言葉を重ね、ポケットから小切手を取り出し、数字を書き込んで真一に差し出した。

 真一はそれを見ることもなく、小切手を押し返した。「周村さん、お気持ちは十分にいただきました。

 僕は正式な医者ではありませんし、この仕事で生計を立てるつもりもありません。診察料は受け取れませんので、どうかお引き取りください!」

 「それじゃ困る!この10億円は少ないくらいで、僕の感謝の気持ちなんだ!

 あなたは僕の命を救ってくれたんだ。僕の命にこれだけの価値がないとでも言うのか!」

 一郎は強く言い張り、無理やり小切手を真一の手に押し付けた。

 「何?

 10億円?」

 真一は驚いた。まさか一郎がいきなり10億円も出してくるとは夢にも思わなかった。

 彼にとって10億円は天文学的な数字であり、これまでそんな大金を見たこともなければ、想像すらしたことがなかった。

 しかし、君子財を愛すこれを取るに道有り。

 彼はただ一郎の病気を治しただけで、こんなにも多額の報酬を受け取るわけにはいかなかった。

 「周村さん、聞いてください。このお金は本当に受け取れません!

 僕は医者ではありませんし、あなたの病気を治したのはただの手助けです。何か報酬を望んでやったわけではありません。もしこのお金を受け取ってしまったら、話が変わってしまいます!」

 真一は首を振り、再び小切手を押し戻した。

 「しかし……」

 一郎は諦めきれず、話し続けようとしたが、真一に遮られた。

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