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第32話

 達也は彼のために復讐できなかったが、真一を会社から追い出すことで少しは気が晴れるだろうと思った。

 さらに、真一が会社を追い出されたら、会社の保護も調停も失うため、堂々と警察に通報して彼を逮捕させることができる。

 「俺を解雇する?

 お前ごときにその資格はない!」

 真一は冷ややかに隆司を見つめ、一歩一歩彼に近づいていった。

 「お、お前……何をするつもりだ?

 警告するぞ、お前……近づくな……」

 隆司は後ずさりしながら、心の中で不安が膨らんでいった。

 「お前が気に食わないんだ!

 もう一度ぶん殴ってやる!」

 真一は冷ややかに笑い、どうせ事態はすでに大ごとになってしまっているので、もう気にすることはないと思った。

 むしろ隆司を思いっきり懲らしめて、自分の気を晴らすことに決めた。

 彼は、この男が自分の命を狙っていたことを、忘れていなかった。

 たとえそのせいで和子に悪い印象を与えたり、会社から追い出されたりしても、それだけの価値がある。

 「お前、そんなことできるのか……」

 隆司は顔を青ざめさせ、逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、逃げ場はなかった。

 「やめなさい!」

 ちょうど真一が拳を振り下ろそうとしたその瞬間、背後から冷たい声が響いた。

 ハイヒールを履いた彩香が外から入ってきたのだ。

 「山本さん、ちょうどよかった、助けてくれ……」

 隆司は大喜びし、転げるようにして彩香の前に飛び込んだ。

 「大山さん、これは一体どういうことですか?

 何が起こったのですか?」

 彩香は床の散乱と、六人の負傷した警備員を見て、顔色が険しくなった。

 「実は、真一が上司に逆らって……」

 隆司は真一を指差し、事の経緯を簡単に説明した。

 しかし、玲奈をいじめたり、真一に嫌がらせをしたりした部分を意図的に隠していた。

 「何ですって?

 真一、これは全部お前がやったの?」

 彩香は驚愕し、信じられない表情で真一を見つめた。

 モーターバイクの件以来、真一の印象は彼女の中では女々しい奴というものだった。

 しかし、彼女の目の前にいるあの弱々しい男が、なんと一人で六人の体格のいい警備員を倒した!

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