第8話

「依奈と君はそっくりだけど、依奈の方がずっと優しくて可愛い。君ももっと笑顔を見せてよ」

これ以上ないくらい心に突き刺さった一言だった。

私を守るって言った時に、どうして私が優しくて甘くないって言わなかったの？

木の陰に隠れて、膝をつきながら「愛してる」と依奈に告白した彼を見たとき、私はとうとう気づいた。彼にとって私は一生「同じ席に座る同級生」に過ぎないんだって。

遠くから彼女の甲高い声が聞こえ、ふと現実に引き戻された。

「お姉ちゃん、こっちに来て。宗真が話したいことがあるって。」

ソファに座ると、彼は鞄から一枚の書類を取り出し、私の目の前に投げつけた。

見覚えのある「離婚届」だった

なるほど、偶然にも、私の引き出しの中にも同じ書類が置いてある。これほどまでに意見が一致するなんて、皮肉なものだ。

宗真はソファに腰掛けて、真面目な顔で言った。「開いてみて、問題なければサインしてくれ」と一言。

その言葉の端々から急かされる様子が見えた。それを見た瞬間、私はふと、離婚なんてやめようかという気持ちになった。

どうして私が、これまで苦労して支えてきた白川家を彼のために手放さなければならないのか？依奈が戻ってきたからって、私は追い出されるべきなのか？

離婚届には目もくれず、私は彼に冷静に尋ねた。「あなたのお父さん、お母さんは、離婚して依奈と結婚することを知ってるの？」

彼は尻尾を踏まれた猫のように、今にもソファから飛び上がりそうな勢いで「俺たちの離婚に親が関係あるわけないだろ！」と怒鳴り声を上げた。

「俺の親を盾に取ろうとしても無駄だ。もともとお前が依奈の場所を奪ったんだ。依奈が戻ってきたんだから、お前は身を引け」

私は吹き出した。依奈の場所を奪った？そんな理屈が通じるのは恋に盲目なやつだけだろう。

依奈が私に同情の表情を浮かべながら、「お姉ちゃん、ごめんね。宗真のそばに8年間もしたから、離婚を渋る気持ちも分かる。

でも、宗真はこの8年間、ずっと私を思っていたの。彼はあなたに愛情を感じたことはないって言ってた。

だからお願い、お姉ちゃん、私たちを許して、宗真と一緒にいさせてよ」

彼女の甘えた声に、私はこれまで感じたことのないほどの腹痛を覚えた。体の中が絞られるような痛みだった。

私は二人の顔を見つめて軽く笑った。これまでは離婚を考えていたけ