第471話

　香織の体、思考、すべてが止まった。

彼……彼が目を覚ました？

どうしよう？

自分の行動をどう説明すればいい？

「イケメンだから、つい我慢できなかった」とでも言うの？

どうすればいい？

香織が頭を押さえられた瞬間、たくさんの言い訳が頭を駆け巡った。

しかし、圭介は目を開けていなかった。

さらには柔らかく彼女の口に探り入れ……

圭介のキスは激しく、香織を飲み込んでしまいそうだった。

香織は息が止まりそうだった。

目を覚ましているのか、それともまだ眠っているのか？

「香織、君が恋しい」

圭介は不明瞭に呟いた。

しかし、香織にはその言葉がはっきりと聞こえた。

香織は驚いた。

自分を恋しいと言った？

ぽつんと涙が香織の瞳から、予兆もなくこぼれ落ち、圭介の顔に落ちた。

圭介は目を覚ましていなかった。彼はただ夢を見ているだけだった。

香織はゆっくりと身を起こし、圭介が寝言を呟いただけだと悟った。

「でも、あなたが私を恋しいと言ってくれて、嬉しいわ」

香織は彼の唇の口紅を拭き取り、布団をかけ直し、寝室を出て、静かにドアを閉めた。

部屋のドアを開けると、そこには越人が立っていた。

彼は本当に圭介のことを気にかけており、ずっとドアの前で見守っていた。

香織を見ると、すぐに駆け寄ってきて、「彼は眠ったのですか？」と尋ねた。

香織はうなずいた。

越人は彼女の口紅が取れて、唇の周りに広がっているのに気づき、眉をひそめた。

まさか、本当に水原様に何かしでかしたんじゃないだろうな？

越人はすぐにドアを開けようとした。

香織がそれを制止した。

「水原さんはようやく眠りについたばかりだから、邪魔しないでください」

越人は目をぱちぱちと瞬かせた。「あなた、彼に何かしませんでしたよね？」

香織はようやく自分の口元のことに気付き、冷静を装いながら、「ただ汗をかいただけです。それでは失礼します」と言って、エレベーターに向かって歩き出した。

エレベーターに乗ると、香織は壁に映る自分の口紅が散らばった顔を見て、拭き取り、マスクを取り出して着けた。

ドアの前にいた越人は混乱していた。

中に入って確認すべきだろうか？

いや、

もし水原様が本当に何かされたなら、もうとっくに飛び出してきているだろう。

彼は大人だ、自分のことは自分で対処できる