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第476話

 越人はある女性を押さえつけていた。

彼女の顔は見えなかったが、白く細い足だけが見えた。

香織は瞬きをした。越人に彼女ができたのだろうか?

それともM国まで連れてきたのだろうか?

「越人、放して!さもないと叫ぶわよ!」

その女性の声は、大きな怒りが混ざっているようだった。

「……」香織は困惑した。

どうやら、ただのいちゃつきではなさそうだ。

彼女は慌てて背を向けた。どんな関係であろうと、見てはいけないと思ったからだ。

ついでに、部屋のドアもしっかり閉めておいた。

そしてふと見上げると、廊下に立っている圭介の姿が目に入った。

彼は自分をじっと見つめている。

香織は目をぐるりと動かした。彼が、自分が越人を覗いていたのを見たのだろうか?

実際、意図的に覗いたわけではなく、ただ好奇心からだったのだ。

「私は何も見ていませんよ」香織は弁解した。

圭介は何も言わず、部屋へと戻っていった。

「……」香織は言葉を失った。

彼の意図がわからなかったのだ。

自分の言い訳を信じたのか、信じていないのか。

態度につかみどころがない。

不安を抱きつつも冷静を装い、「水原さん、昨夜はよくお休みできましたか?」と尋ねた。

圭介は部屋に入り、返事はしなかった。

香織は、これ以上話すと何か間違えるかもしれないと考え、「お湯を準備して薬浴をしますね」と言って浴室へと急いだ。

しかしその時、越人が突然部屋に飛び込んできた。

しかも、女性を一人連れていた。

越人はもうすぐにでも愛美に狂わされそうだった。

彼女はただの付きまといではなく、影のように常にそばにいて、越人を四六時中苦しめていたのだ。

さらに、愛美の身分のせいで、越人はどうすることもできなかった。

「水原様、彼女にもう本当に狂わされそうです」

「まだ全然正気に見えるけど。もし本当に狂ったら、母さんの墓がどこにあるか、教えてくれるかしら?」

愛美は圭介のことを怖がっていなかった。

自分が圭介とは父親が違うが、母親は同じであるため、彼が自分をどう扱おうと、さすがにそこまで酷いことはしないだろうと思っていた。

だからこそ、こんなにも無遠慮に振る舞えるのだ。

越人は彼女を掴んで締め上げたい衝動に駆られたが、どうすることもできなかった。

「水原様」越人は、圭介に愛美の問題を解決してほしい
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