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第424話

 彼女は厚い封筒を男に渡した。

「口を閉じておいで」悠子は声を低くしたが、口調には脅しの意味が込められていた。

男は手にした封筒の厚さを確かめ、満足そうに笑いながら言った。「安心しろ、余計なことは言わないよ」

悠子は周りを見回し、誰もいないのを確認してから帽子のつばを押さえ、「行くわ。二度と連絡しないで」

男はニヤリと笑った。「いいけど、横断幕を掛けるだけでこんなにお金がもらえるなんて、こんなに楽な仕事があるなら、今後も頼むよ」

悠子は拒否せず、「安心して。すべてはあなたに任せるわ。条件は、あなたの口が堅いこと。報酬は絶対に少なくないわ」と言った。

「安心して、俺の口は絶対に堅いから。この件、満足してくれた?」

悠子は頷いた。彼女の目的は達成された。

ビルの外に掲げられている横断幕は、彼女が人を雇って作らせたもので、由美だと誤解させるためだった。

これにより、憲一と由美の間に亀裂が生まれ、松原奥様が由美をさらに嫌うように仕向けるつもりだった。

今の結果を見ると、効果は上々だった。

今朝の出来事も含め、松原奥様の由美への嫌悪感は最高潮に達していた。

誰も、これが彼女の仕業だとは思わないだろう。

結局、それは彼女の結婚式であり、新婦に疑いをかける人はいないからだ。

疑われるべき対象は、憲一の「彼女」となる。

「今後、何かあれば俺に連絡して」男が言った。

悠子は「うん」と返事し、彼らは電話で連絡を取ることはなく、お金も銀行を通さない取引をしている。

こうすることで、取引の痕跡が残らない。

男は歩きながらお金を数え、満足そうな笑みを浮かべていた。

香織は驚いた!

横断幕を掲げたのが悠子だなんて。

それは彼女自身の結婚式ではないか。

自分の結婚式に泥を塗るなんて。

彼女の目的は何なのか?

由美を陥れること?

考えるだけで背筋が寒くなる。

悠子はこんなに計算高いのか?

彼女の見た目とはまるで真逆だ。

むしろ、彼女の見た目は欺瞞に満ちている。

一見、純粋で童顔を持ちながら、こんなに計算高い行動ができるなんて。

本当に、人は見かけによらない。

今後、彼女と接する際にはもっと警戒しなければならない。

香織は気分を整え、スーパーでたくさんのものを買った。

矢崎家に着くと、大きな袋を持って降りた。

家に入ると、誰もいなか
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