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第260話

 近づいてきたのは、その男性の審査員だった。香織が衣装を忘れていたので、それを届けに来たのだ。ちょうどその時、香織が彩花に髪を引っ張られているのを目撃し、助けようとしたが、彼よりも先に動いた者がいた。

 「服だ」男性の審査員は衣装を差し出した。

 香織が手を伸ばして受け取ろうとした瞬間、圭介が先に手を伸ばして衣装を受け取り、礼を言うこともなく、冷たい目で彼を一瞥した。

 香織が踊っている間、この男が香織に見とれていたのを圭介は気づいていた。

 今、彼が衣装を届けるという口実で話しかけようとしているのではないか?

 香織は圭介が礼儀知らずだと思った。確かに衣装を忘れてしまったのは自分だ。彼女は笑顔で男性の審査員に言った。「ありがとう。今日は色々と助けていただいて」

 「いえ、どういたしまして」審査員は控えめに微笑み、「こちらの方は……」

 「旦那よ」香織が答えた。

 今日の圭介は控えめだったため、審査員は彼を普通の人だと思い、彼を上から下まで見回した。

 身長が少し高く、顔が少し整っている以外は、特に何もないだろう。

 さらに、彼には自分にはないものがある。自分ほど優しくない。

 その冷たい目を見るだけで、彼の気性が良くないことがわかる。

 「矢崎さん……」

 審査員が何か言おうとした瞬間、圭介は香織を抱きしめ、「行こう」と言って、審査員の言葉を遮った。

 香織は圭介を一瞥し、何も言わずに彼に従った。

 車の中に入ってから、彼女は口を開いた。「なんだか機嫌が悪いみたい。あの審査員に対して敵意があるように見えたけど?」

 圭介は黙って車を発進させた。

 香織は圭介の性格を知っていたので、彼が答えないときは、それ以上問いただすことはしなかった。

 どうせ彼の気性はこんなものだ。

 彼女は話題を変えた。「今回双を狙っているのは、やはり彩花だと思う。彼女の背後には誰かがいるかもしれない」

 これは彼女の推測だった。

 彩花にはその動機がある。

 「彩花が佐知子を刑務所から出すことはできないけど、幸樹やあなたの祖父、それにあなたの叔父なら可能だと思う。今回の件も、背後に支援者がいるから彩花が実行できたのだと思うわ」香織は今回の事件を分析した。

 圭介も彼女の考えに同意した。

 今、彼らが何をしても、圭介は驚かない。

 「彼らは会
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