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第9話

直人はうめいて、私の顔を見ると後ろにのけぞった。

悠斗が直人の襟首をつかんで、無理やり私の顔を直視させた。

「よく見ろ、こいつは優香だろうが!

お前ほんとに人間じゃねえな。自分の奥さんがこんな無惨な死に方してんのに、涙一つも出てこねえのか?」

直人はあんなに冷酷だったのに、突然顔を覆って、崩れるように泣き始めた。

「どうして死んだんだ……俺は、俺は……」

その先は、何も言えなかった。もう顔向けできない状態なのだろう。

直人は思ってたんだ、いや、彼は信じていた。でも、現実はこんなにも残酷だった。

私は死んだ、あいつに殺されたんだよ。

あんなに悲しんでる直人の姿を、私は一度も見たことがなかった。地面に這いつくばったまま、腰も立たないくらい泣き続けていた。

直人は頭を地面に何度も叩きつけたので、顔を上げた時、血が彼の額にべっとりとついていた。

悠斗は怒りに満ちて、直人の胸に一発蹴りを入れた。

「泣いてんじゃねえ!男なら優香姉ちゃんの仇を取れ、犯人を突き止めろ!

まさか犯人が誰かわからねえなんて言うな!

そうだ、言い忘れてたけど、優香姉ちゃんと俺に酒を飲ませて意識を飛ばさせたのは、あいつだ、お前の大好きな美穂だ。俺、もう証拠は握ってるんだ。ただ、優香姉ちゃんとお前の幸せを思って、あえて言わなかっただけだ」

直人はふらつきながら立ち上がって、私の遺体の前に歩み寄った。

彼はそっと私の顔を撫でて、まるで子どもをあやすみたいに優しい口調で言った。

「優香、もう寝るのはやめない?俺が家に連れて帰る」

彼の手は私の傷跡をなぞりながら、最後には切り開かれたお腹に触れた。

そこにはかつて小さな命があった。でも今は、もう何もない。

彼の涙がポタポタと私の身体に落ちてきた。

「優香、痛くないか?

あの時、すごく怖かったんじゃないか?ごめん、俺が守ってやれなかった……。

優香、悔しかったんじゃないか?でも大丈夫だ、俺が仇を討ってやるから、ちょっと待っててくれないか?」

彼は優しく私に白い布をかけた。彼が振り向いた時、その目にはまるで鬼のような凶悪さがあった。

悠斗でさえ、ちょっとびびっていた。

彼が部屋を飛び出そうとした時、悠斗が彼の手を掴んで、「冷静に!」と言った。

しかし、彼は悠斗の手を強く振り払って、しゃがれた声で怒りを込めて言った。
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