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第8話

陸橋と深水は隣に宿を取り、民宿の近くで彼らの姿をよく見かけた。

この日、私は買い出しに出かけた。

後ろから誰かが付いてくるのを感じ、足を速めて振り切ろうとした。

また陸橋か深水だと思った。

でも次の瞬間、目の前が暗くなり、気を失った。

目が覚めると、崖のそばで、霧島晴が隣にいた。

彼女は随分憔悴し、目からは高慢な色が消えていた。

ナイフを私の喉元に突きつけ、恨みのこもった声で言った。

「城井杏、私のどこに及ばないというの?なぜ彼らはあなたを選ぶの?

ほら見て、こんな時でも冷静なのね。感心するわ。

もうすぐ彼らが来るわ。その時もそんな態度でいられるといいわね。助けを乞うんじゃないでしょうね」

口には布が詰められ、一言も発することができなかった。

遠くから、二人が走ってきた。

陸橋と深水だ。

二人の目には切迫した色が浮かんでいたが、前に出ることもできず、自制していた。

霧島晴は嘲るように笑い、刃を私の顔の上で滑らせた。

「へぇ、怖いんだ。

いつも冷静なあなたたちが」

深水が先に我慢できなくなり、冷たい声で言った。「晴、よく考えろ。誘拐は犯罪だぞ」

「そんなこと、どうでもいいわ。望、あの時あなたたちは私のために城井杏を海に投げ込んだでしょう。今度は私があなたたちのために彼女を捕まえたの。感動しないの?」

この狂人、感動するなら私を巻き込まないでよ。

陸橋が二歩前に出たが、霧島晴に制止された。

「来ないで。来たら彼女を突き落とすわよ」

崖下は急流で、岩も散在している。落ちれば、死なずとも重傷は免れない。

目の前が霞んで、海に投げ込まれた時の恐怖が再び襲ってきた。

陸橋は霧島晴と駆け引きを続けていた。

突然、霧島晴の感情が爆発し、刃が私の顔に数本の血痕を付けた。

「嘘つき!私なんか娶るつもりないじゃない。あなたが愛してるのは彼女よ」

陸橋は私を一瞥してから、霧島晴に優しく語りかけた。「晴、俺たちの絆は、誰にも比べられない」

「俺は城井杏をただの妹としか見ていない」

「妹なんかとして見てほしくないの!憎んで、嫌って!」

霧島晴の感情は更に激しくなり、私を崖縁に向かって押した。小石が落ちていったが、音は聞こえなかった。

陸橋は慌てて言った。「分かった。憎む、嫌う。晴、落ち着いて」

霧島晴の力が緩んだ瞬間、私がほっと
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