第331話

彼は箱を私の前に差し出して、淡々と言った。「見てみろ」

——打撲薬。

箱の文字を見た瞬間、恥ずかしくて穴があったら入りたい気分になり、急いで立ち上がった。「薬だけ渡してくれればいいわ。後でお風呂に入って自分で塗るから」

正直、彼がいなければ、転んだことはもう忘れていただろう。

「いいよ」

彼は目尻に笑みを浮かべ、少し挑発的に口元を歪めた。「サービススタッフに頼んで河崎来依を連れてこさせたから、もし自分で塗れなければ、彼女に手伝ってもらえ」

最初から彼は、私が怪我をした場所が秘部だと考慮していたんだ。

私が考え過ぎていただけだった。

考えれば考えるほど、恥ずかしくなり、彼を部屋から追い出して、勢いよくドアを閉めようとした。

彼は片手でドアを押さえ、突然昨夜のように私の顔をつかんで、低く囁いた。「清水南、明けましておめでとう」

彼の声とともに、外で花火が打ち上がる音が響き渡った。

華やかで煌びやかな花火が、窓いっぱいに映り込み、彼をますます自由奔放に照らしていた。

「そして、もう逃げるな」彼が続けた。

......

江川宏は多くの約束を口にしたが、それはどれも空虚なものでしかなかった。しかし、服部鷹に対して放った一言は本気だったのか、彼はすぐに行動を起こした。

正月が過ごしていないうちに、江川グループは服部家のいくつかのプロジェクトを堂々と奪い取った。

服部家も黙ってはいなかった。すぐに電子製品を発表したが、それには江川が第一四半期に発表を予定していた主要技術が盛り込まれていた。

江川は多くの宣伝をしていたが、結局、他人の利益となり、自分は大きな損失を被ることになった。

河崎来依はちょうど大阪のいくつかの顧客と新年後の商談のために会う予定があったので。

私たちは鹿兒島には戻らず、しばらく休暇を取ることにした。

その日、河崎来依はネットニュースを見て少し困惑した。「服部鷹が本当にあなたのために、江川宏とこんなふうに争いを続けると思う？」

「わからない」

私は肩をすくめた。

あの夜以降、私は服部鷹とあまり連絡を取っていなかった。

電話もかかってこず、彼が時々「何してる？」とLINEで聞いてくる程度だった。

彼が本当に私のためにこうしているのか、自信が持てなかった。

過去の経験で、私は感情に対する自信をすっかり失ってしまった