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第329話

廊下のじゅうたんはふわふわだが、尾てい骨が重く地面に落ちた瞬間の痛みは、混乱した頭をわずかに清明に戻した。

私を連れてきたのは江川宏だった。

まさか、彼を間違えていたなんて。

私の抵抗を感じ取ったのか、江川宏はしばらく呆然としていたが、光に逆らって冷笑した。「彼と付き合うと決心したの?彼が藤原家の娘を迎える時、あなたはその介添になるつもり?」

服部鷹の口はいつも毒舌だった。「お前もそうするつもりか?」

彼は足が長いので、数歩で私の前に来て、私を地面から引き上げながら、江川宏に微笑んだ。「江川社長、どうぞお先に」

江川宏は両手を握りしめ、怒りを押し殺していた。「あなたは藤原奈子に心を寄せておいた方がいい。清水南は、俺のものだ」

「彼女は誰のものでもない」

服部鷹は淡々と言った。「彼女は彼女自身だ」

江川宏の目は冷たくなり、私に手を伸ばした。彼がこれまでの人生で最低の姿勢を見せていると思っているのだろう。

彼は自分の妥協だと思った。「聞いて、もう騒ぐな。君と彼は一緒になれない、帰ろう」

「私が彼とどうなるか、あるいは誰かとどうなるかは、あなたには関係ない」

頭が痛くてたまらないのに、口から出る言葉ははっきりしていた。「私とあなたは、もう離れただから、こんな誤解を招くようなことを言わないで」

その言葉を聞いて、江川宏はまるで壊滅的な怒りを感じたように、恐ろしい口調で言った。「誰の誤解を恐れてる?」

彼は服部鷹をちらりと見て冷笑した。「彼の?清水南、まさか本当に彼に心を動かされてるのか、彼を使って俺を苛立たせるつもりなのか?」

私は思わず笑いそうになった。「どうして彼に心を動かされてはいけないの?」

その瞬間、酒のせいなのか反発心なのか、私は手を上げて服部鷹の衣服をつかみ、つま先立ちになって彼の頬に唇が一瞬触れた。

酔っていても、何かが激しく鼓動する音が聞こえるような気がした。

それが服部鷹のものか、私自身のものかは分からなかった。

江川宏を見返した。「今、信じた?」

彼の顔色は黒いほど悪かったが、彼が動く前に、服部鷹は強引に私を抱き寄せ、江川宏を見た。

「南ちゃんは酒に弱いので、江川社長にご迷惑をおかけした」

謝罪の言葉を言ったつもりだが、口調には少し自由さが感じられた。

南ちゃん。

突然の親しげな呼び方に私は驚いた。

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