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第8話

木村は唇を噛みながら、目に不満の色を浮かべた。

「私の正体を暴いて、何をさせたいの?」

私は慌てて手を振った。

「私があなたに何かをさせようとしているわけじゃないわ。ただ道を示しているだけよ。選ぶのはあなた次第」

彼女の硬い表情が少し和らいだのを見て、私は続けた。

「田中浩二は今や何も持っていない。あなただけよ。5年前にあなたが彼を捨てた時と同じように、私は彼を立ち直らせることができる。あなたにもその力はあるはずよ」

木村は聡明な人間だった。彼女は瞬時に私の意図を理解した。

「今の彼のポケットにあるわずかな金で、私に何ができるっていうの?もし金を作れるなら、あなたのところになんか来ないわ!」

「彼の名義にはないかもしれないけど、彼のお母さんの家はまだあるでしょ!」

木村は目を輝かせ、すぐに策を思いついた。

彼女は帰るなり田中に起業したいと伝え、義母に家を担保に融資を受けるよう頼んだ。

義母は最初は同意しなかったが、木村が「私なら成功できる。海外留学から帰ってきた私が、あの人より劣るはずがない」と言った。

さらに田中が何かを成し遂げたいという切実な思いから、胸を叩いて1年後には利子付きで返済すると約束し、義母はようやく同意した。

しかし、木村はお金を手に入れるやいなや姿を消してしまった。

田中は彼女が起業の準備で忙しいのだろうと思い、問い詰めることもなかった。取り立て屋が家に来るまで、騙されたことに気づかなかった。

その頃には木村はもうどこかへ逃げてしまっていた。

義母は田中の鼻先を指さして罵った。

「こんなバカな息子を産んでしまうなんて。良い暮らしをしていたのに、わざわざ死んだふりをして詐欺師と駆け落ちするなんて!これで家まで騙し取られてしまったじゃないの!」

田中は罵られても口答えできず、心の中では木村をさらに憎んでいた。

彼らは家を失い、義妹の家に身を寄せるしかなかった。

私も黙ってはいなかった。私立探偵が見つけた田中の偽装死の証拠をすべて警察に送った。

警察は夜を徹して関係者を取り調べた。

義母も義妹も逮捕された。

田中だけは木村を探しに出かけていたため、逮捕を免れた。

私立探偵から報告を受けた時は気にも留めなかったが、家に足を踏み入れた瞬間、何かがおかしいと感じた。

「佐藤美咲、これは全部お前のせいだ!」

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