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第2話

「自分の息子や兄の死を望む人なんて見たことがない!」

義母と義理の妹の顔に、同時に戸惑いの色が浮かんだ。

私は葬儀社の人に言った。「身元が確認できたなら、今日火葬にしましょう」

遺体が火葬された後、義母はようやくほっとしたような表情を浮かべた。

遺体がなくなれば、警察がまた調べに来ても無駄だろう。

でも、私はこのまま引き下がるつもりはない。

職員が骨壷を私に手渡した。葬儀場を出るなり、私は彼女たちの目の前で骨壷の中身をまき散らした。

「お、お前!」

義母は私を指差し、怒りで言葉を失っていた。

義理の妹が慌てて駆け寄り、義母をなだめながら言った。「佐藤美咲、兄をこんな目に遭わせるなんて、許さないわよ!」

「人は死んだんだ。箱の中身が骨灰か土くれかなんて、誰も気にしないでしょう。まき散らしたものはまき散らしたまま」

そう言って、私は彼女たちを置いて警察署へ向かった。

死亡証明書を持って、当直の警官に尋ねた。

彼は注意深く確認した後、これは本物だと教えてくれた。

私の心は少し萎えた。

だが、考え直してみると、これは意図せず的を射ていた。

証明書には田中浩二の名前と身分証番号がはっきりと書かれており、田中浩二が本当に死んだことを証明できる。

私はこの事件を担当している警官を見つけ、彼は当時の状況を説明してくれた。

「我々が到着してすぐ、被害者の母親と妹が来ました」

「彼は携帯電話と身分証を持っていましたが、念のため、被害者の母親が遺体の痣を確認して、この人物が田中浩二だと特定しました」

私は心の中で冷ややかに笑った。

田中浩二の妻として、私が一番よく知っている。

彼の体には痣なんてないのだ!

義母は意図的に私に知らせず、身元不明の遺体を使って欺こうとしたのだ。

「警官さん、加害者のドライバーは義母から示談書をもらったのでしょうね?」

彼が頷くのを見て、私は続けた。「私は示談書を出しません。妻として、犯人を厳しく罰することを要求します!」

警官は加害者のドライバーの名前が鈴木大介で、東京の郊外出身だと教えてくれた。

私はその名前を心に刻んだ。

その日のうちに、私は田中浩二の戸籍を抹消し、未婚の身分に戻った。

幸いなことに、田中浩二名義の財産は何もなかった。

今住んでいる家も車も、私の婚前財産だ。

今となっては、彼の偽りの愛情に感謝したいくらいだ。

私が彼と出会った時、彼はキャリアと恋愛の両方で低迷期にあった。

起業に失敗し、全財産を失っただけでなく、借金まみれになっていた。

彼の初恋の相手、木村祐子さえも彼を捨てて海外へ行ってしまった。

私は一日二つの仕事をこなし、質素な生活をして彼の借金を返済した後、残ったお金で小さな店を開いた。

毎日朝早くから夜遅くまで働き、体には洗い落とせない油の匂いがしみついていた。

幸い、私の料理の腕前は悪くなく、手頃な価格も相まって、2年後には支店を出すことができた。

それから5年が経ち、もともと10平方メートルの小さな店は、今や東京の有名チェーン企業になった。

田中浩二が私にプロポーズした時、ダイヤの指輪を持って告白した。

彼は言った。今の自分があるのは私のおかげだと。私がいなければ、彼はまだダメ人間のままだったろうと。

私は彼の救いであり、希望だと。

彼は自分の名義のすべてを私にあげると言った。

でも、それがどうだというのか。彼は結局私を裏切った。

離婚を切り出す勇気すらなく、偽の死で私を騙そうとした。

いくらでも言い訳できたはずなのに、わざわざ私に彼を殺したという汚名を着せようとした。

幸い、神様が私にもう一度チャンスをくれた。今度こそ、あなたたち全員に自業自得の報いを受けさせてやる。

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