「春介!久しぶり!どうしてここにいるの?」バーの外で、私は高橋春介と挨拶を交わした。高校三年間同じクラスだった友人との再会はまるで別世界のような感じだった。「仕事がうまくいかなくて、気分転換に来た」彼は続けて説明した。「さっきから心美ちゃんが少し困っている様子に気付いて、思わず手を出してしまった。」街灯の下、彼のかっこいい横顔は半分影に隠れていた。拳を振った手の一部が傷ついているのが目に留まったので、私は近くのコンビニで絆創膏を買って彼に貼ってあげた。一言一句に応えてくれるし、いざという時に頼りになる。高校時代、数学を教えてくれたあの時と同じ、優しくて責任感のある彼。大学に進学してから、彼も私のことが好きだと偶然耳にしたことがあった。ただ、その頃には私たちの道は既に違っていて、散ってしまっていた。過去はもう、取り戻せないもの。「ちょうど別れたばかりの私は、少し落ち込んでいる彼と共通点も多かった。彼は、帰り道の一番暗い場所まで送ってくれて、そこで連絡先を交換し、建物の外で別れを告げた。その後の半年間、春介からは連絡がなかった。その間に、私は長年貯めていたお金を思い切って女性向けアダルトグッズ業界に投入し、さらに友達の女性心理相談業も取り込んで事業を開始。二つを組み合わせ、会社を立ち上げて『愛光』と名づけた。顧客の開拓やプロモーション、企業との提携、日々の運営など、やるべきことは山積みだった。やはりこのブルーオーシャン市場は予想通り無限のビジネスチャンスに満ちていた。毎日、地に足がつかないほど忙しく、貯金残高がどんどん増えていくのを見ながら、他のことを考える余裕などなかった。まさか、春介と再会するとは思いもよらなかったし、しかも気まずい場面で再会するなんて…。
街はだんだんとお正月ムードに包まれ、実家に帰る時期が近づいてきた。早めに航空券を予約していたものの、仕事でギリギリになり、危うく遅れるところだった。空港に到着すると、私は仕事の電話をしながら荷物を預け、搭乗の準備を進めていた。すると、検査機がピーピーと警告音を鳴らし始めた。「お客様、荷物を確認させていただいてもよろしいですか?」「どうぞ、禁止物は入っていないはずですが、できるだけ急ぎでお願いします」「また心美ちゃんか?会う時って、いつも何か特別なことが起きるね」そう言いながら、どこか懐かしい声が聞こえてきた。驚いて振り返ると、そこには笑顔でえくぼを浮かべている春介が立っていた。「わからないわ、もしかして荷物の預け入れに問題があったのかも…」「え…変ね…特に変わったものは入ってないはずだけど…」その瞬間、全身がゾクっとした。いや、何も変わったものはない、会社の展示用サンプルとして入れた女性用アダルトグッズ以外は!仕事のためにいくつかサンプルを持ってきただけなのに…!もうその時、係員が私のスーツケースを開けていた。
震える手を伸ばしかけたが、途中で止まった。係員たちはひそひそと話し合い、既にサンプルが入った箱を見つけていた。消えてしまいたい。むしろ、ここで死んでしまった方がマシかもしれない。背後では、春介が小声で心配してくれているのが聞こえたが、私は一言も発せなかった。絶望の中、グッズが一つ一つ取り出され、パッケージが開かれ、さらに中のサンプルとリチウム電池までもが取り出されていくのを、私はただ見つめるしかなかった。すると、後ろにいた春介が突然黙り、周りの乗客も何とも言えない沈黙に包まれた。やっと空港の係員が、この場に慣れているようで、重苦しい空気を破ってくれた。「お客様、規則によりリチウム電池は預け荷物に入れられません。お手数ですが手荷物に移して再度検査を受けていただけますか」「…笑いをこらえてません?」「いえ、私たちは専門のトレーニングを受けていますので、基本的には笑いません。どうしても我慢できない場合を除いて」係員が必死に笑いをこらえているのが目に見えて、私は急いでサンプルを手荷物に入れた。手荷物検査をもう一度通れば、今度こそ大丈夫…顔が赤くなっているのを感じながら、自分を励ました。もうこれ以上の恥はかけない。これで終わりだ。と思っていたが、甘かった。「手荷物検査」も問題が起こった。手荷物の検査で、また係員たちが画面を見ながら小声で話していた。「お客様、もう一度お荷物を開けていただけますか?」気まずい気持ちを抑え、平静を装って手を動かし、リチウム電池を取り出した。「お客様、すみませんが、その突起した物もすべて確認させていただきたいのですが」頭が真っ白で、手が動かない。係員が催促する中、隣にいる春介がさっと手を伸ばし、私の荷物を受け取ってくれた。彼は私をそっと守るようにして立ち、私を抱きかかえてくれた。平静を装いながら、バッグの中のおもちゃを取り出した。「このバッグは私のです。私たち一緒です」そう言ったのは、春介だった。係員はまだ状況を飲み込めずに尋ねた。「これは何ですか?」「これは…」春介は言葉に詰まり、彼の顔も今にも爆発しそうなくらい赤くなっていた。そこで私は悟り、こう言った。「これ、ナイトライトです!光るんですよ!今お見せしますね!」スイッチを入れる
この気まずい旅は、私が彼に名刺を差し出したことで一旦終わりを迎えた。その後、私たちは時々連絡を取り合うようになり、彼には母親がお見合いを勧めている話を打ち明けた。彼は私もと言った。なぜか、私たちの間には何かが隔たっているような気がして、互いに心を開けていない感じがしていた。そんなある日、避けて通れないお見合いの場で、三十代の公務員と会うことになった。カフェで向かい合って座った彼は、延々と話し続けた。「家庭環境もあまり良くなく、仕事も少し特別だけど、結婚後は家庭に専念して家事をすれば、僕も受け入れることができるよ」彼が手を伸ばして私と握手したがった。私は素早く避け、説明しようとしたところに、元彼の陽翔がなんと車で現れ、やたらと派手に仲直りを求めてきた。「隠していた俺が悪かった。でも君も言いすぎだよ。家族を説得するから、もう機嫌を直してくれ。7年の付き合いなんだ、君だって俺を忘れられないはずだ」冗談じゃない!数日前に萌音と話したことを思い出した。「まだ陽翔と付き合ってるの?私の経験から言ってやめたほうがいいと思うよ」「家同士の都合だよ、私は彼に感情なんてないから」萌音が近づいてきて、声を潜めて言った。「ねえ、彼ってあんまり…そうじゃないの?」私は微妙に笑いながら、「まあ、うちでも男性向けの商品あるし、必要なら教えてあげて」「聞いてみて、ついでに軽くからかってみたら?」「彼との関係が全然理解できない、複雑すぎるよ」「お互い明確に利益だけの関係だって割り切れば、複雑じゃなくなるわ」初対面で気が合い、それから私は彼女と友人になり、しょっちゅう話すようになった。彼女がいくつかの顧客も紹介してくれた。二人の男は気まずかったが、私はそろそろこの場を離れることにした。「ごゆっくり、私はこれで失礼します。会社でオンライン会議があるので」バッグからポルシェの車の鍵を取り出した。飛行機に乗らないと決めてから車が必要になり、思い切って買ったばかりだった。ついでに陽翔に名刺を渡し、言った。「萌音さん、先日相談に来たの。もし購入するなら割引するから」「あなたとはもうご縁がないけど、健康には気をつけてね」名刺にはこう印刷されていた。愛光株式会社 代表取締役 加藤心美愛光、女性向けアダルトグッ
見合いに時間を費やすのは本当に無駄だ。 年明け前、短い動画やライブ配信が流行しているのを見て、今こそ愛光のオンライン相談とライブ配信の事業を拡大するチャンスだと思った。 オンライン会議で、新しいインセンティブプランと具体的な実行計画を提示し、新しいオンライン部門が立ち上がった。 すべてが計画通りに進み、各部門が協力することで、会社の売り上げも目に見えて伸びてきた。 社員の収入も増えていき、私も全体を管理しつつ、必要なところでサポートに回り、毎日忙しく駆け回っていた。 その日は心理カウンセラーの資格を持つ私がサポートとしてオンライン相談に応じることになり、打ち込みがあまり得意でないおばさんが連絡をくれた。 彼女は慌てて自分の状況を伝え、私は彼女の気持ちを落ち着かせながら、音声入力を教え、彼女はようやく長文のメッセージを送ってくれた。 大まかな話は、退職したおばさんが一生添い遂げた夫と離婚したいというものだった。 生活面での些細な摩擦や夫婦生活の不調、長年積もりに積もった我慢の数々… 彼女は若い頃に周りの目を気にして離婚を思いとどまり、子供が生まれればそのために、また受験があるからと先延ばしにしてきた。 そんなこんなで気づけば、髪は白髪まじり、人生でやりたいと思ったことを何一つしていないことに気づいたという。 心理カウンセリングではお客様の代わりに選択をすることはできない。 私たちはただ、彼らが自分の心と向き合えるよう導き、選択の結果についても考えられるようサポートするだけだ。 でも、彼女の話にどこか母の面影がよぎり、私は例外として彼女に自分の連絡先を教えた。 それからも連絡を取り合ううち、深く考えた末、彼女は裁判所に離婚を申請したと言ってきた。 結果を待つ間、彼女は見違えるように解放されたようだった。 彼女は自分の貯金でキャンピングカーを買い、自分の人生で行きたい場所に出かけると言う。 出発前に一度会いたいと誘われ、私は彼女と約束した。
おばさんは電話で話していた時と変わらず、力強く、笑顔にあふれていた。 彼女はカフェで新しい味のコーヒーとデザートを試しながら、満足そうに笑っている。 「心美ちゃん、もうすぐ息子が迎えに来るの。彼と少し話してみてくれる?」 「でも私は女性の心理カウンセリングしか担当していませんし、男性問題は専門外ですよ」 「大丈夫よ、相談じゃなくて、お見合い。もし無理そうならすぐ追い返すから」 生活を取り戻した彼女の率直な様子に私は断ることもできず、まあもう一人くらい見合い相手が増えても慣れていると覚悟した。 彼女と今後のキャンピングカー旅行について話し笑っていると、店の入り口に見覚えのある姿が入ってきた。 「心美?」 「春介?」 私たちは同時に驚きの声を上げた。 おばさんだけがまるで計画が成功したかのように笑っている。 「この子ったら、ずっと名刺を見つめてぼんやりしてたから、名前を検索してみたの。偶然も偶然、見つけちゃったわ!」 おばさんは電話を受けながら車の調整に向かい、残された私と春介はお互いに目を見合わせた。 私は空港でのあの気まずい場面について説明し、今の自分の仕事について話し始めた。 話が進むうちに、少しずつお互いの心が開かれていった。 「高校の頃の夢が叶って、今は脳神経外科医になった。でも、そんなに楽しいわけじゃないんだ」 彼も徐々に心を開き、仕事での話してくれた。 「実は、仕事の後に付き合った女性がいて…彼女は事故で頭に重傷を負ったんだ。僕が主治医だったんだけど、手術で助けられなかったんだ」 「それから、手術に対する自信がなくなってしまって、手術台に立てなくなってしまった」 「バーで偶然心美ちゃんと会った後、ずっと自分を立て直そうとしているけれど、まだ完全には乗り越えられていないんだ」 「焦らなくてもいいわ。人生って、必要な時にちゃんと必要なものを与えてくれるんだから」 さらに話を続けようとしたその時、またも見覚えのある、そして気まずい空気を感じる人物が近づいてきた。 陽翔だった。 良くない予感がした。
「わざと見合いをして、俺を怒らせようとしてるのか?」 陽翔が怒って、私の手首を掴んで問いかけた。 「わざわざ怒らせる必要なんてないわ。私たちはもう何の関係もないから」 私は落ち着いて事実を述べたが、心の奥で少しイライラして、陽翔の手を振り払いたくなった。 彼は傷ついたような表情を浮かべ、逆にその手をさらに強く握りしめてきた。 「7年も付き合ってタノに、未練は少しもないのか?」 「陽翔、一体何に未練を残せと?」 「最初から最後までの嘘?それとも裏切り?脅し?私の尊厳と努力を踏みにじったこと?」 「陽翔、いい加減にしてよ」 「今、私は目の前の男性と結婚を前提に付き合っているの。いい加減にして、私の人生から出て行って」 「心美、俺を許してくれないのか?変わるから…」 私は、竹内氏の後継者として誇り高く振る舞っていた彼の目に初めて懇願が浮かぶのを見た。 「お前のようなクズ男を許すことはできないわ」 私は断固として言い放ち、彼に一切の希望を砕いてやろうと決めた。まるで、彼の誕生日に私の心を壊した時のように。 陽翔は手を離さず、私が嫌がるほどにしっかりと私を捕らえて店の外に引きずり出そうとした。 その時、春介が立ち上がり、陽翔の手を強引に外していった。 「聞こえなかったのか?彼女は今、俺と結婚を前提に付き合っているんだ。話があるなら外でしよう」 普段穏やかな彼が怒ると、その迫力は一層際立った。 春介の額には青筋が浮かび、二人は店員に促されて外へと向かった。 戻ってきた時には、春介の手には傷がついていた。 「大丈夫さ。あいつの方がもっとひどくやられたから」 何か言おうとしたが、言葉が見つからない。 「彼を騙すために付き合っていると言っただけなのは分かってるよ。別に説明しなくても大丈夫だ。さあ、送っていくよ」 日が暮れ始め、春介は自分の上着を私に掛けてくれた。 彼と共に暗い道を歩くのは、これで二度目だった。 「実は…違うかも」 私は小さく呟いた。 隣の彼は一瞬驚き、足を止めた。 空には、月がいたずらっぽく笑っているようだった。
年月が経ち、人も環境も変わっていったが、あの夜、月明かりの下でようやく高校時代の両片思いがそっと交わった。 二人の濡れた手が次第に握り合い、私と春介はようやく肩を並べて歩き出した。 陽翔との感じとは違い、私と春介の愛は静かで深い。 母もようやく見合いを勧めるのをやめ、春介の母と個人的に会って仲良くなり、二人で大晦日を一緒に過ごすことまで決めてしまった。 二人とも朗らかな女性で、決めるのは早かった。 紅白歌合戦の音楽を背景に、私は春介と一緒に手をつなぎながら家のベランダから夜景や花火を眺めていた。 二人の母たちはリビングでおしゃべりを楽しみながら、ひまわりの種をつまんでいる。 花火の隙間から、母の声が微かに聞こえてきた。 「心美は小さい頃から父親がいなかったから、私たち二人の生活は楽じゃなかったのよ。それでも彼女がやり遂げようとしていることには、彼女なりの理由が必ずあるわ」 「あの子は本当に素晴らしい子だよ」 おばさんが続けて言った。 「これからは私と春介が、支えられる存在になりたい」 隣で握られている手が、さらに強くなった。 春介は私を抱き寄せ、寒さから守ってくれた。 愛と尊敬、彼は本当に神様からの贈り物のようだった。 陽翔は時折、私の生活に顔を出し続けている。 「前は俺が悪かった、許して。今度こそ償わせて」 私は首を振り、特に心も動かず、それ以上は気にかけない。 人生の努力が報われるとは限らない。 私にとっても、彼にとっても同じことだ。 現実は、受け入れて手放すしかないのだ。 年が明けて、春介は高校時代のキャンパスを再訪するという名目で、私にプロポーズをした。 私は驚きと喜びでその場で受け入れ、不思議と涙が溢れ出して止まらなかった。 待ちに待った、互いに心からの愛が、今ここに。 私たちの結婚は自然と話題にのぼるようになった。 二人で一緒に入籍、式の日取り、式場のことまで話し合った。 今もこれからも、春介と私の間には問題が起こるだろう。 でも私は信じている。 「必要な時に必要なものは与えられる」と。 お互いに愛し合うなら、きっと一緒に乗り越えられる。 ただ、予想もしなかった問題が、すぐに訪