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第529話

もし本当にただのいたずらなら、それが一番いい。

しかし、そうでない場合は注意しなければならなかった。

「わかった、気をつける」

「ところで、健二の依頼人は誰だった?調べがついたか?」

「調べがついたよ」

「誰だ?」

「由佳だ」太一が淡々と言った。

清次は一瞬固まり、隣のドアをちらりと見やりながら尋ねた。「本当に?」

「確かだよ。健二に依頼する前、彼女と会って、依頼の内容を話していたようだ」

清次はしばらく黙り込んだ。

由佳が私立探偵を雇って、あの時の誘拐事件を調査している?一体なぜ?

太一が笑いながら言った。「もしかして彼女、まだ君のことを気にかけてるんじゃないか?だからあの件を調べているのかもな。放っておけばいいだろ?もう歩美とは終わってるんだから、どうしてまだ彼女のために隠し事をしてるんだ?」

今、誘拐事件に関する情報はネット上には一切出回っていない。これはすべて清次の手腕によるものだった。

由佳が私立探偵を雇うのも無理はなかった。

清次は少し間を置いてから言った。「僕が由佳とどういう関係であれ、あの事件に関して彼女は被害者だ」

もし事件がネットで明るみに出れば、確かに多くの人が歩美を同情するだろう。しかし同時に、多くの人々が有名人の被害者に対して厳しい目を向け、嘲笑し、侮辱することも予想された。

あの時、歩美の恋人として彼は一定の責任を果たせなかったことは事実だった。

彼は歩美に対して、この件を完全に封じ込めると約束し、それを必ず果たすつもりだった。

彼がこの件で歩美を脅そうとしたことは一度もなかった。

今、歩美が自業自得の状況に陥っていることに対しても、彼は何の同情も感じていなかった。

太一はため息をついて、「そうだな」と返事をした。

通話を終えた清次は、再び由佳の家に戻った。キッチンから物音が聞こえてきて、彼は足を運んでそちらへ向かった。

由佳は振り返って彼を見て、「ちょうど良かった。手羽中の骨を取ってくれない?沙織にハチミツ焼きチキンを作るの」と言った。

シンクの横には、肉厚で大きな手羽中が一皿置かれていた。

「分かった」

清次は由佳をじっと見つめ、最近彼女が自分を使うのが随分と手際よくなったなと思った。

「ハサミは竹篭の中にあるから」と、由佳はまな板の横を指さした。

「うん」

清次はハサミを取り出
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