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第409話

 由佳は数文字を打ち込み、「ごめんなさい、今日の午後はちょっと忙しくて、携帯を見ていなかったわ。これから数日間は空いているので、都合のいい時間を選んで」

彼女は指を数秒間、送信ボタンの上に留めてから押し下げた。

由佳は健二との会話画面に戻り、「この誘拐事件の手がかりをこれ以上追うことはできないの?他の二人の指名手配犯からは何か見つけられないかな?」

「できるだけ調べてみます」

「良い知らせを待っています」

由佳がそう返信すると、斎藤颯太から返事がきた。

斎藤颯太:「大丈夫だよ、お姉さん」

斎藤颯太:「じゃあ、明日にしようか。明日の昼はどう?」

由佳:「いいわ」

斎藤颯太:「じゃあ、お姉さん、レストランを選んでくれる?」

由佳は少し考えて、「じゃあ、元町にある富春堂にしましょう。個室を予約しておくわ」

斎藤颯太は嬉しそうなスタンプを送ってきた。「いいね!」

由佳は携帯の画面を閉じ、全身の力が抜けたようにソファの背にもたれかかり、目を閉じて一息ついた。

まさか、斎藤颯太が斎藤陽翔の息子だったとは。

斎藤颯太はいつも、純粋で明るく、陽気な青年という印象を由佳に与えていた。

彼は父親のことを知らないかもしれない。

しかし、彼を騙さなければならないと考えると、由佳は少しだけ罪悪感を感じた。

それでも父のためには、彼女はこの道を歩み続けなければならない。

しかも、斎藤颯太が無実とは限らない。彼の学費は、斎藤陽翔の不正な金でまかなわれているかもしれないのだ。

……

午前9時、由佳は星河湾の別荘に山口沙織を迎えに出発した。

車を別荘の前に止め、由佳はクラクションを2回鳴らした。

しかし、数分経っても誰も出てこない。

由佳はシートにもたれかかり、お手伝いさんに電話して沙織ちゃんを呼びに行ってもらおうとしたが、清次が今日用事があると言っていたのを思い出した。今は別荘にいないはずだ。

中には沙織ちゃんと家政婦だけ。

由佳は携帯を切り、安全ベルトを外して車を降りた。

別荘へと向かい、近づくと客間のドアが開いていたので、由佳は中に入ったが、誰もいなかった。

中に少し進んで、「沙織ちゃん?」と声をかけたが、返事はなかった。

「家政婦さん」

それでも返事はなかった。

一体どうしたのだろう?

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