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第153話

彼は外で少し歩いた後、制作グループの人たちが帰ったであろうと見込んで、戻ることにした。

戻る途中、ある角を曲がると、目撃者と吉村総峰が話しているのが聞こえた。

 目撃者が言った。「当時は現場にいなかったの?そんなにひどい状況ではなかったと思うけど」

 吉村総峰が当時の状況を振り返りながら答えた。「その時はみんな非常に焦っていましたが、幸いにも救援が間に合いました。火も大きくは燃え広がらず、救助された時点では、左足のズボンの片方だけに焼けた跡がありました。他の部分は見当たりませんでしたが、もしかしたら見間違いかもしれません」

 「見間違いではないと思いますよ。山辺さんのところでも同じように聞きました。左足の内部の衣服は無事だったので、大した怪我ではないはずです。今のマネージャーたちはこういうことを大げさに言うのが好きで、加波歩美の病歴が公開されたら、ファンが制作グループを攻撃するでしょう。彼女自身も被害者のイメージを作ろうとしています。注意するようにと言ったはずなのに…」

 目撃者は、加波歩美と山本菜奈が傷を誇張しているのは、マーケティング上の利益を得ようとしているからだと考えていた。

 例えば、ファンがすでに公式ブログで加波歩美の演じる部分を一番多くするようにと制作グループに要求しているという話もあった。

 制作グループ側は戸惑った。

 このドラマは冒険小説を基にした作品で、物語は吉村総峰が演じる男主角・佐藤慎太郎の視点で進行するため、どうしても加波歩美の部分は少なめになる。

 そんな状況でどうやって加波歩美の部分を一番にすることができるのか。

 「そんなことはどうでもいい。理由はどうであれ、彼女が怪我をした事実は制作グループの失職であり、監督も全力で協力するしかありません」

と吉村総峰は言った。

 「ただ、これで撮影の進行がかなり遅れることにはなるだろうな」

 「それは大丈夫」

 「聞いたところによると、山口社長は一晩中ここで守っていたそうです。加波さんに対して本当に感情があるようですね」

 「それは確かに珍しい」

 二人はこれ以上何も話さず、副監督と山田美子が到着した後、四人は先に帰っていった。

 山口清次は彼らの背中を見送りながら、深く考え込んだ。

 吉村総峰の言う状況と山本菜奈が教えた内容は完全に異なっていた。

 吉村
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