第161話

彼女は由佳に勝ったように見えたが、実際は完全に負けていた。

山口清次は答えなかった。「他に用事がないなら、先に仕事に戻る。」

彼は電話を切り、携帯電話を横に置いた。

再び電話がかかってきた。

山口清次はすぐに音を消し、携帯電話の画面を下にして机に置いた。

彼は椅子の背にもたれ、襟を緩めて、心がとても軽くなった。

おそらく、心境が変わったのだろう。

電話の向こうの歩美は、暗くなった携帯電話の画面を見つめ、胸が痛くて呼吸ができなかった。

なぜ？

なぜこうなってしまったのか？

彼はすぐに由佳と離婚するはずだったのに。

すぐに山口清次の妻になれるはずだったのに。

すぐに世界で一番幸せな女性になれるはずだったのに。

今では、すべてが泡となって消えてしまった、幻のように。

歩美の目には憎しみがいっぱいだった。

由佳！

すべて由佳のせいだ！

彼女がいなければ、山口清次ととっくに結婚していたのに！

彼女は諦めきれなかった。

今回の出張は五日間の予定だったが、仕事は三日目の午前中で終わり、約二日間の余裕ができた。

由佳はアシスタントに休暇を与え、緑川市で遊ばせることにした。まるで観光に来たかのように。

由佳は総峰からメッセージを受け取った。「この数日間、時間ある？ちょうど暇だからご飯でもどう？」

「撮影中じゃなかったの？」

「ニュースを見てないの？歩美のことで、撮影が危険だと言われて数日間中止になったんだ。だから緑川市で仕事を済ませたところ、今日帰るつもりだ。」

「奇遇ね、私も今、緑川市に出張に来ているの。」

「本当？仕事は終わった？ご飯ごちそうするよ？」

「OK、私がレストランを探すね。」

最後に由佳は隠れ家のような評判の良い私房菜館を選んだ。

総峰が先に到着し、個室を取り、いくつかの料理を注文した。

しばらくして由佳が入ってきた。「お待たせ。」

「座って。」

「ここで何の仕事をしているの？」由佳はテーブルの横に座った。

「リアリティ番組のゲストとして出演するためだよ。食べたいものがあれば自分で注文して。」

「いいえ、あなたが私の好きなものを全部注文してくれたから。」

総峰は微笑み、何気なく尋ねた。「彼氏とはどう？」

由佳は口元が引きつり、手を振った。「その話はやめて。」

「喧嘩したの？」総峰は口で聞きながら、