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第110話

山口清次は運転手を連れておらず、由佳は助手席のドアを開けて座り、安全ベルトを締めた。

山口清次は運転席に座り、車のエンジンをすぐにはかけなかった。

彼は手を上げて襟を緩め、無関心に尋ねた。「医者に僕が君の前夫だって言ったの?」

この言葉を聞いて、由佳の心臓はドキリとした。

まさか山口清次はすでに彼女が妊娠していることを知っているのだろうか?

由佳は警戒心を抱きながら山口清次を見て、膝の上に置いていた両手を無意識にゆっくりと腹部に移動させて握り締め、先手を打とうとした。「どうしたの?あなたは加波歩美が私たちの結婚に介入して離婚の原因になったと思うことを心配しているの?」

「由佳、そういう意味ではないよ」

「それなら、どういう意味なの?」由佳は眉をひそめて彼を見つめた。

山口清次は唇を噛み、「君を責めるつもりはない」と言った。

彼は由佳の夫として、由佳が医者に自分が前夫だと言ったのを聞いて、心の中で少し不快に感じていた。

「気にしすぎたと思っておこう」由佳は無意識のふりをしながら答えた。「事故に遭ったときに言ったことだし、その頃は離婚するつもりだったから、前夫と言っても大して変わらない」

山口清次:「……」

山口清次は何も言わずに車を発進させ、走り出した。

由佳は静かに山口清次の表情を見て、ほっと息をついた。

彼はまだ彼女が妊娠していることを知らないようだった。

由佳は目を閉じて深く考えた。おじいさんの体調が回復してきたため、短期間で山口清次と離婚することはなさそうだが、月日が経つにつれて、彼女の腹の子供はバレるだろう……

その時には、おじいさんとおばあさんが守ってくれるだろうから、山口清次が無理に子供を中絶させることはないだろう。

車は山口氏ビルの地下駐車場に停まった。

由佳と山口清次はそれぞれ車から降り、一緒にエレベーターに乗った。

エレベーターはゆっくりと上昇した。二人は言葉を交わさなかった。着いたらエレベーターが止まった。

由佳が最初にエレベーターから出た。

オフィスへ向かう途中で、いくつかのオフィスエリアを通り過ぎた。数人の社員が由佳に気づいて挨拶した。「総監督」

「総監督、調子はもう大丈夫ですか?」

「……」由佳は微笑んで頷き、「心配ありがとうございます、ほぼ回復しました」と言った。

由佳はオフィスに向かって歩
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