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第98話

田中健太はやむを得ない気持ちになった。午前に玉壺春瓶を割ってしまったばかりなのに、自分が外に出てた間、このおじいさんはまた骨董街に行っていたのか?

いわゆる喉元過ぎれば熱さを忘れるというものだ。

佐藤太郎は大笑いして、少し神秘的な口調で言った。「このコップは1000万円の価値があると言われていただけだ。でも、わしがいくらで買ったか当てられるか?」

佐藤まゆみはためらいながら、「600万円…でしょうか?」と試しに尋ねた。

「違う!もう一度当ててごらん!」佐藤太郎は手を振った。

「400万円?」

「まだ違う!」

隣にいた田中健太は青磁のカップを一瞥して、それが偽物だとすぐに見抜いた。心の中では、「こんなものせいぜい2000円で十分だ」と思っていた。

その時、佐藤太郎は思わせぶりをせずに笑いながら言った。「はははは、6000円で買ってきたんだ!凄いだろう?」

佐藤太郎は大笑いして、湧き上がる喜びを抑えられなかったようだ。

佐藤まゆみは驚きで目を丸くして、信じられないような口ぶりで尋ねた。「まさか、このコップを本当に6000円で買ったの?」

義母の佐藤加奈が騒ぎを聞いて、台所から出てきた。喜んだ表情で、「このコップが本当にそんなに価値をもっているの?偽物じゃないでしょうね?」

佐藤太郎は胸を叩き、「大丈夫だ。コップを売っている人は市況を知らないから。俺は専門家にも見てもらった。これが本物だと言ってるんだぞ!」

「そうなの?」佐藤加奈は慎重にコップを手に取り、左右に眺めながら、うれしくて口もとが緩みっぱなしだ。

田中健太はそばに立っていて、ただ調子を合わせて笑ったが、表情は落ち着いていた。

彼はとっくにこのカップが偽物だと気づいたが、義父がこんなに喜んでいるのを見て、真相を明かすことはしないようにと決めた。

佐藤太郎は興奮して、まるで魚を盗んだ猫のように、「このコップはまだセットになっていないんだ。その店主が明日もう一つ持ってくると言った。明日また行ってみよう!セットを揃って買ってくるぞ。そうすれば、価値は数倍にもなるかもしれない!運が良ければ、12000万円分の借金を返済できるかもしれない!」と喜々として話した。

田中健太は眉をひそめて、すぐに食い止めようとした。「父さん、骨董を楽しむ際には欲深くならな
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