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第8話

隆也番外編

智美と別れた後、隆也は心の中にぽっかりと穴が開いたように感じた。

彼は何が欠けているのかを知っていた。

しかし、彼にはもう戻る道はなかった。

彼は孤児の身から今の地位まで登りつめたのは、背水の陣のような決意によるものだった。

少なくとも、美咲がいる。

そう思うと、彼は深い息を重く吐き出した。

人は少年時代に手に入れられなかったものに、一生縛られるものだ。

高校一年生の入学の日、校門で彼女が豪華な車から降りてくるのを見た時から、彼はどうしようもなく彼女に心を奪われていた。

彼女の顔は白く滑らかで、靴底は一切汚れていなかった。

隆也にとって、美咲はまるで童話の中の姫だった。

それは彼とは全く異なる世界であり、彼に深い憧れを抱かせた。

無限の劣等感は長い年月の間に無限の渇望へと変わった。

彼は抗うことができなかった。

しかし、一日の仕事を終えて家に戻ると。

彼を迎えたのは、美咲の笑顔ではなく、ただマルチーズ犬だけだった。

その時、美咲から電話がかかってきた。

電話越しにも向こうの耳をつんざくような音楽が聞こえた。

「今日は帰らないわよ。ルーシーにご飯をあげるのを忘れないでね」

そう言って、電話は切れた。

彼が返事をする暇もなく。

隆也はリビングに立ち、周りを見回した。

ソファには美咲の服が積み重なり、バルコニーの植物は枯れ、キッチンは長い間使われずに埃を被っていた。

彼女が家族と見なしていたルーシーの餌皿は、どれだけ空のままだったのか分からなかった。

足元で餌を求めるマルチーズ犬を見つめると、隆也の心は激しく痛んだ。

彼は犬を蹴り飛ばし、ソファに崩れ落ち、手の甲で目を覆った。

指の隙間から、涙が頭上の光を光斑に砕いた。

後悔しているか?

いや、彼は後悔することはできないし、その資格もない……

その後、彼は美咲と結婚した。

しかし、新婚の幸せは長くは続かず、証明書を受け取った翌日には突然終わりを迎えた。

「結婚したんだから、あなたのお金を私に預けるべきではない?」

美咲は星のような目を輝かせながら、彼の前に手を広げた。

「何?」隆也は少し戸惑った。

「あなたの銀行カードよ!」

美咲は少し苛立っていた。

「ああ、それのことか」隆也は理解すると、少し苦笑して言った。「智美に全財産を渡したんだ。彼
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