第203話

杏奈は美優が亡くなる直前の姿を見て、何ヶ月も悪夢に悩まされ続けた……

彼女には理解できなかった。どうして母親でありながら、実の息子にここまで残酷になれるのだろうか？

彼が大切に思うものがあれば、それが人であれ物であれ、彼女は狂ったように、すべてを徹底的に壊していくのだ！

杏奈は霜村冷司の「恋人」を装っている時も、美優と同じような恐ろしい最期を迎えるのではないかと怯えていた。

だが、それでも彼女は覚悟を決めた。この自分など、相川言成の手先にされ、自らの尊厳が踏みにじられた時に、すでに消え去っていてもおかしくない存在なのだから。

霜村冷司はその時、彼女に手を差し伸べ、「復讐には焦るな。時が経てば必ず成功する」と教えてくれた。

彼女はその言葉で生きる希望を取り戻し、彼の支援のもとで海外に渡り、医術を身につけて帰国した。

彼が与えてくれた再生の力に応え、彼のために忠誠を尽くすことが当然の義務だと感じていた。だが、予期せぬことに……

本来は和泉夕子を守り、彼女の存在を彼らに気づかれないようにするための行動が、逆に彼女を危険に巻き込んでしまったのだ。

杏奈は一瞬下を向き、その心に湧き上がる深い後悔を抑え、再び霜村冷司を見つめた……

「社長、やりましょう！」

命を落とすだけのこと。何も恐れることはない。

霜村冷司は彼女を一瞥し、その冷たい視線を再び車椅子の婦人に向けた。

「彼女は私が気にかける女ではない。私を脅かすことはできない」

婦人はその言葉を聞くと、手元のベルトを弄んでいた手を一瞬止め、彼を見上げて唇に薄く笑みを浮かべた。

彼女が笑うと、焼けただれた顔の皮膚が引き伸ばされ、まるで地獄の悪鬼のような陰湿さが漂っていた。

「所詮、ただの盾よ。気にかけるはずもないわね……」

婦人は車椅子の背に寄りかかり、どこか楽しげに唇を緩めた。

「しかし驚いたわね。よくも私の目の届かないところで、密かに女を囲っていたものだわ……」

もし監視をしていた者から、彼がある女の墓前で手首を切って自殺を図ったと報告がなければ、このことには気づかなかったに違いない。

一体どのようにして彼女の目をかいくぐり、五年も密かにあの女を隠し続けていたのだろう……

だが、そのこと自体は重要ではなかった。大切なのは、死者を使って彼を地獄へと追い詰める方法を見つけることだ。

婦