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第17話

和泉夕子がプロジェクトをもらってくると言った瞬間、林原辰也の興味が一気に引き立てられた。

来月には城西エリアの開発競争入札が始まる予定であり、親父は彼に、このプロジェクトを勝ち取れば、後継者の座を譲ると言っていた。

しかし、今回の競争相手は帝都から来る望月家であり、国内で指折りの大手企業でもある。プロフェッショナルな分野で望月家に勝つのは非常に困難であり、そのため、林原辰也は霜村冷司を懐柔してこのプロジェクトを取ろうとしていた。

だが、霜村冷司は非常に手強い人物だ。

今回も霜村涼平に頼んで紹介してもらったおかげで、ようやく彼に会うことができた。

霜村冷司を懐柔してプロジェクトを取るのは、ほぼ不可能に近い。

もし和泉夕子が彼に代わってこのプロジェクトをもらってこられるなら、それに越したことはない。しかし……

林原辰也は疑念を抱きながら、和泉夕子に尋ねた。

「お前が霜村冷司の弱みを握っているなら、なぜその弱みを使って地位を奪わないんだ?」

和泉夕子はすぐに答えた。

「ないわけでもない。彼に脅迫して、彼女になりたいって言ったの。でも彼は同意しなかった」

林原辰也は目を細めて彼女を見つめた。

「彼が同意しなかったなら、再度脅迫しても無駄だろう?」

和泉夕子は自信たっぷりに言った。

「今回は彼が同意しなければ、その動画を藤原優子に送りつける」

林原辰也は軽く眉を上げ、彼女をじっと見つめた。

「お前は俺に触れさせたくないから、そんな提案をしてるんだろう?」

「その通りよ。」

和泉夕子はあっさりと認めた。

「私は、愛していない人と肌を重ねることはできないと何度も言ったはず。もし愛している人がいたら、自然と自分から動くものよ。まるで霜村様に対するようにね。だけど林原様は待っていられないみたい。あなたには触れられたくないから、仕方なくプロジェクトを手伝うしかなかったの」

林原辰也は彼女が自分の思惑を明かしたにもかかわらず、堂々とした態度でいることに少し驚いた。

数日前、彼女が巧妙に自分を説得したとき、彼女の頭の良さに感心したが、今日の彼女の姿勢には一層の敬意を感じた。

彼女が金銭や権力に興味がないように見えたのは、霜村冷司のような人物を狙っていたからだと理解できた。

自分よりもはるかに高い目標を掲げていたのだ。

頭脳にしても、野心にしても、手段にしても、あるいは駆け引きや交渉に至っても、この女は実に見事だ。

彼女に任せれば、プロジェクトを本当に手に入れることができるかもしれない。だが……

林原辰也は和泉夕子の顎を掴み、彼女の顔を自分の方に向けさせた。

「もし失敗したら、お前の親友は俺の仲間たちに任せる」

彼は白石沙耶香が和泉夕子の弱点であることを知っている。白石がいる限り、和泉は永遠に自分に従わざるを得ないだろう。

和泉夕子の心は怒りで震えていたが、彼女は歯を食いしばりながら答えた。

「心配しないで」

林原辰也はようやく彼女を解放し、少し残念そうに言った。

「お前が今これほど嫌がるなら、まずはそれでいい。プロジェクトを手に入れた後で、ゆっくりと感情を育んでいけばいいさ……」

女性を弄ぶことよりも、林原家の後継者の座が彼にとっては重要だった。

もし和泉夕子がプロジェクトをもらってくることができれば、彼女が自分を愛するようになるまで待つ価値がある。

いずれにしても、和泉夕子が自分のものになると考えれば、林原辰也はそれほど名残惜しくもなかった。

彼女を抱きしめ、強くキスをすると、そのまま立ち去った。

彼が去った後、和泉夕子は床に倒れ込むように座り込み、深く息を吐いた。

彼女はソファに手をついてゆっくりと立ち上がったが、全身が震えて寒さに凍えそうだった。

それが林原辰也による恐怖からなのか、霜村冷司への怒りからなのか、彼女自身もわからなかった。ただ、心臓が窒息するかのように痛んでいた。

和泉夕子は震える手でバッグから薬を取り出し、心臓を落ち着かせるために何粒か飲み込むと、やっとの思いでその場を立ち去った。

時は真冬、冷たい風が服の中に吹き込むようで、彼女の体を冷やしていた。

それでも彼女は寒さを感じることなく、彫刻のように無表情で家へと向かって歩き続けた。

その時、遠くに停まっていたケーニグセグが彼女の前に急停車し、彼女の進路を遮った。

相川涼介が車から降り、和泉夕子の前に立ち、恭しく言った。

「和泉さん、霜村様があなたをお呼びです」

和泉夕子は彼の言葉を無視して、そのまま前を向いて歩き続けた。

相川涼介は仕方なく彼女の前に立ちはだかり、彼女を止めた。

「和泉さん、あなたもご存知の通り、霜村様の性格は気難しいですから、逆らわない方がいいです」

そうだ、自分のような何も持たない孤児が、権勢を誇る霜村冷司に逆らえるはずがない。

彼の言葉に従わなければ、最終的にどうなるかは想像に難くない。林原辰也以上に、彼を敵に回すのは難しいだろう。

和泉夕子は抵抗を諦め、大人しく車に乗り込んだ……

座席に身を沈めた彼女は、後部座席に座る男に目を向けた。

彼は高価なスーツを着こなし、数億円の腕時計を身に付け、限られた台数しかない高級車に乗っている。まさに、格の違う存在だ。

一方の彼女は、ワインまみれの服を身にまとい、粘つく臭いを漂わせている。彼の前では、まるで道化のような存在だ。

その格差を目の当たりにし、和泉夕子は一刻も早くその場を去りたいと思った。

彼女は冷たい声で尋ねた。

「霜村様、用件があるなら早く言ってください。まだ家に帰らなければなりませんので」

彼の前で、彼女はいつもおとなしく従順であり、こんな態度で話しかけたことはなかった。

霜村冷司は少し顔を向け、深く冷たい瞳で彼女をじっと見つめた。その視線には、まるで彼女の心を捕らえるかのような威圧感があった。

和泉夕子は無意識に視線を外したが、彼は突然、彼女に身を寄せてきた……

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