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夫は初恋と二人で月見をして、娘を原始林に置き去りにした
夫は初恋と二人で月見をして、娘を原始林に置き去りにした
著者: 平山瀬菜

第1話

家のドアを開けた時、目の前の光景に私は思わず立ちすくんだ。

リビングは明るく照らされ、楽しげな笑い声が響き渡り、円卓には豪華な料理が並び、空気には甘い月見団子の香りが漂い、まるで祝宴のような景色だった。

しかし、私の心は冷え切っていた。氷のように冷たかった。

佐藤武と鈴木桜がソファに並んで座っていた。二人は親しげに寄り添い、口元に幸せそうな笑みを浮かべていた。

義母は彼らの向かいに座り、桜の息子、大助を抱きかかえ、月見団子を一口一口と彼に食べさせていた。

大助は小さな顔にもち米がつき、楽しそうに笑っていた。まるで昔の私の娘のように。

月見団子……娘……

胸が締め付けられ、視界がぼやけ、私はその場に倒れそうになった。

「おや、これが姉さん?祭りの日にそんな陰気な顔をしてどうしたの?」桜は私を見つけ、皮肉めいた声で言った。

彼女は武の腕にわざと寄りかかり、自分の主権を誇示しているかのようだった。

武は私を見上げ、一瞬不機嫌そうな顔をした。「今日は十五夜だぞ。もっと明るくしないか?それと、何度も言ったが、少しくらい桜を見習って、きちんとした身なりを整えてくれないか?」

私の服は泥だらけで、乱れていた。それを一目見ただけで、異常な状況がわかるはずだった。

それなのに、彼は何の心配もせず、不満と軽蔑の目を向けた。

私は深呼吸をして、感情を抑えながら冷静に彼らを見つめて言った。「武、娘がどこに行ったか知っているの?」

義母が私の言葉を聞き、大助を抱きしめながら私に苛立ちを向けた。「あんた、その話をする資格があるのかい?あんたの娘はあんたと同じで、礼儀を知らない!十五夜にどこかへふらふら行ってしまって、大助とは全然違う!」

「もう一度言ってみろ!」私は体を起こし、義母を鋭く見つめ、歯の隙間から言葉を絞り出した。

私の声は鋭く、まるで雷鳴のように部屋中に響き渡った。全員がその場に凍りついた。

彼らは私がこんな姿になるなんて、夢にも思っていなかっただろう。

武は真っ先に立ち上がり、私を指差して叫んだ。「高橋愛!どうかしてるのか?何なんだ、その態度は!」

彼の言葉に耳を貸さず、私は一歩一歩義母に近づき、目が大助を射抜くように見つめていた。

「私の娘の名前を口にする資格なんてない!お前ら全員にその資格はない!」

私の声は次第に大きくなり、最後には叫び声に変わっていた。

息が荒くなり、視界が血で染まり、激しい怒りが私を燃やし尽くそうとしていた。

武は私の突然の爆発に驚き、信じられないという表情で私を見つめ、嫌悪と怒りが入り混じった目を向けてきた。

「愛、何がしたいんだ?」彼は冷たく言い放ち、「見てみろ、自分の今の姿を。どこが妻で、どこが母親らしいんだ?」

私の唇が震え、「母親?お前、娘が……」

「武、怒らないで。愛は、きっと私を見て、不快に思っただけよ……」桜が私の言葉を遮り、か弱い声で、悲しそうに武を見つめた。「私がここにいるから、愛が気まずく思っているだけ……私が大助を連れて先に帰ろうかしら……」

「桜、帰らないで。帰るべきのはあいつだ」武は考えもせずに答え、私に向き直り、怒りのこもった目を向けた。「愛、もういい加減にしろ。今すぐどっかへ行って、自分の行動を反省してこい。何をやっているのか、よく考えてから、また話そう!」

「私……」口を開こうとしたが、もう何も言う気になれなかった。もう何も説明するつもりはなかった。

私は武を見つめた。かつて私を愛していると言っていた男は、今や冷酷な見知らぬ人になってしまっていた。

私は迷わず背を向け、重たい足を引きずりながら、娘の部屋へ向かった。

「息子!あの女と結婚するなんて、私の言うことを聞いていればよかったんだ!見てみろ、まるで気違いのようじゃないか、うちの名誉を汚すなんて!」

「母さん、もうやめて。桜と一緒に祭りを楽しもう、あんな奴のことは放っておけ!」

後ろから聞こえてきた声が、私の心を無限の深淵に突き落とした。

私はふらふらと娘の部屋に入り、ベッドに倒れ込んだ。

涙が静かに頬を伝い、娘のピンクのシーツを濡らし、私の心も冷たく染み渡っていった。

部屋にはまだ娘の甘い香りが残っていた。まるでキャンディのようだった。しかし、私の世界にはもう一片の甘さも残されていなかった。

全部私のせいだった。あの時、もし私は仕立てに出ず譲らなければ、娘と一緒に行くと強く主張していれば、あの時、武の言葉を簡単に信じなければ、娘は……

私は顔を覆い、後悔と自己嫌悪が毒蛇のように私を締め付けた。呼吸ができなくなった。

「パタン」という音と共に、何かが私の手から滑り落ち、床に落ちた。

見ると、それは娘の一番のお気に入りの人形だった。無表情な目で、ただ床に横たわり、まるで運命の不条理を無言で訴えているかのようだった。

私は震えた手でその人形を拾い上げ、胸に強く抱きしめた。まるで娘の温もりを感じ取ろうとするかのように。

「何をしているんだ?」武の苛立った声が突然ドアの外から聞こえ、私の思考を引き裂いた。

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