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第219話

若子は藤沢修の険しい表情を見て、まるで自分を階段から突き落とそうとしているように感じた。

以前なら、藤沢修がそんなことをするとは到底思えなかっただろう。

だが、今は状況が変わった。この男は何でもやりかねない、本当に彼女を階段から突き落とすかもしれない。

彼が突然ここで立ち止まったのも、そんな考えがあってのことじゃないか。でなければ、なぜ立ち止まったのだろう。

藤沢修はじっと彼女を見つめ、しばらくの間、何も言わなかった。暗く深いその瞳には、まるでどんな感情も映っていないかのようで、まるで暗く冷たい黒い海のようだった。

若子は唾を飲み込み、心臓がドキドキと鳴り始めた。本当に少し怖くなってきた。視線をそっと階段の段差へ向けた。もしここから突き落とされたら、彼女の命は半分も残らないだろうし、お腹の子も守れない。

藤沢修と比べて、彼女の体はあまりにか弱い。とても彼に太刀打ちできない。彼が本当に彼女を突き落とすつもりなら、小さなひよこを放り投げるように簡単にできてしまうだろう。

子供を守りたいという本能が働き、若子はとっさに藤沢修の服を掴んで、必死にしがみついた。目には恐怖の色が浮かんでいる。「今夜はもう喧嘩しないで、お願い」

彼女はぐっと堪えた。どれだけ腹が立っても、どれだけ心が痛んでも、明日離婚できるまで我慢しよう。離婚が成立したらすぐに出て行って、藤沢修から遠く離れ、二度と会わないで済むように。

そんな風に心の中で思っていても、口には出せなかった。またもや彼を怒らせ、被害者ぶって彼女を責められたらたまらない。

何しろ、彼はまるで天気のように気まぐれだ。

ふと、ニュースで見た「妻を殺した夫」の話を思い出してしまう。

他人を殺せば死刑だが、妻を殺した場合は......数年で済むことがあるらしい。

若子の恐怖に満ちた目を見て、修は足元の階段に目をやり、何かを悟ったかのように言った。

「お前、俺が突き落とそうとしてると思ってるのか?」

時に藤沢修は、若子の心の中がまったく理解できない。この女は、彼にはまるで手に負えない謎のようだった。それが悔しくてたまらなかった。

しかしまた、時に彼はまるで読心術でも使っているかのように、若子の心を見抜いてしまう。それもまた、彼を苛立たせた。

若子はまた唾を飲み込んだが、返事をしなかった。だが修には、彼女の瞳に浮
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