共有

第187話

その時、修は彼女の言葉を聞いて、表情が一瞬で冷たくなった。

「言いたくないならそれでいい、次にしよう」

藤沢修は冷たく振り返り、扉の方へ向かった。

扉の前にたどり着いた瞬間、松本若子が突然その背中に向かって大声で叫んだ。「次なんてない!藤沢修、今日ここを出たら、もう二度と次なんてないんだから!」

......

扉の前で、その大きな背中は一瞬止まったが、たった二秒後には何の情もなく去って行った。

その瞬間、松本若子はふっと笑みをこぼした。

「ドスン!」と音を立てて、彼女はカーペットの上に崩れ落ち、泣き笑いながらカーペットをしっかりと掴んだ。

なんだよ、藤沢修。お前は次なんてどうでもいいんだろう。

お前は私のことなんてどうでもいい。お前が気にしているのは桜井雅子だけだ!

松本若子、バカかお前は!

「パチン!」と音を立てて、自分の頬を強く叩いた。

もう彼に期待なんてしないでおこう。彼はいつだって桜井雅子を選ぶんだから、いつだってそうだ!

修は毎回、彼女に一粒の飴をくれると、彼女は愚かにもそれを受け取り、彼を許すために自分を慰め、彼にはまだ心があると信じていた。別の観点から見れば彼はまだ良いところがあると。

しかし、実際に大事なのは、修の視点から見れば、彼が愛しているのは桜井雅子であり、自分はただのピエロ、藤沢夫人の座を奪っている三人目の女でしかない!

これからは、もう飴なんて要らない、もうバカにはならない!

松本若子は涙を拭き取り、床から立ち上がった。彼女はクローゼットからコートを取り出し、それを羽織って部屋を出た。

修は車で病院に向かっていたが、彼女が後を追っていることに気づかなかった。

黒い空から雨が降り始め、病院に到着すると、修は車を停め、雨の中を急いで病院に駆け込んだ。若子もその後を追った。

修が病室の前に駆けつけると、桜井雅子が看護師たちによってベッドごと手術室に運ばれようとしていた。

「雅子!」修は全身びしょ濡れでベッドの側に駆け寄り、彼女の手を握った。

「藤沢さん、桜井さんを手術室に運ばないといけません!」

桜井雅子はベッドに横たわり、息をするのも辛そうだった。修の姿を見ると、感情が一気に高まった。

彼女の治療を遅らせないために、修は彼女の手を離し、「雅子、大丈夫だよ。外で待ってるから」と優しく言った。

看護師
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status