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第182話

「じゃあ、君は本当に俺に怒ってないのか?」修は確認するように再び尋ねた。

「一応、今のところは怒ってないわね」若子は「今のところ」という言葉を付け加えた。未来に何が起こるかはわからないし、彼女はそれを保証するつもりはなかった。しかし、少なくとも今は彼に対して怒っていなかった。

普段は口が達者で調子の良い男たちが、危険が迫ると真っ先に逃げ出すのに対し、修のように、普段は彼女を怒らせることがあっても、いざという時に命をかけて彼女を守る男を、彼女は許す気になった。

修は満足げに口元を緩め、彼女の頬に軽くキスをして「怒ってないって言ってくれて、ありがとう」と囁いた。

「別に感謝することじゃないわよ。さあ、もう寝ましょう」

修は静かに「うん」と答えた。その時、突然携帯電話の着信音が鳴り響いた。修はちらりとディスプレイを見た。

若子も「雅子」という文字をはっきりと目にした。

彼女の心は一瞬にして痛みを感じた。さっきは「怒ってない」と言ったばかりなのに、今はまた怒りがこみ上げてきた。特に、修がためらうことなく指で画面をスライドさせて通話を取ったのを見て、怒りは増していった。

若子はすぐに身体を修に背け、布団をきつく巻き込んで目を閉じ、耳を塞ぎたくなるような気持ちだった。

桜井雅子からの電話を受けるたびに、彼はいつも出かけて行った。今日もそうなるに違いない。男の言葉なんて信じられない。こんな遅い時間に彼女から電話が来ると、修はすぐに応じる。そしてまた、彼女の元に行くのだろう。彼はいつもそうだった。

「修、もう嫌い......本当に嫌い。なのに、私は自分が甘すぎる。何度も何度も、君を許してしまう......」

「いや、今日は行かない」

そんな思いで心がいっぱいになっていた時、突然修の声が聞こえた。若子は驚いて耳を疑った。

目を開けずに聞いていると、修は冷たい声でこう言っていた。「早く寝ろ。体調が悪いなら薬を飲めばいい。世話をする人はいるんだろうし、俺が行っても何もできないよ。若子と一緒に寝るから、もう切るぞ」

修は相手の返事を待つことなく電話を切り、携帯を一方に投げた。そして彼女を後ろから抱きしめた。

「今のは雅子からの電話だ。体調が悪いから見に来て欲しいって言ってたけど、俺は行かないって言った」

修は、最後の「行かない」という言葉を彼女の耳元で強く囁
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