共有

第105話

藤沢修はうなずいた。「そうだ」

今さら「違う」と言えるわけがない。

「わかった」

その一言が、とても苦く感じた。苦すぎて、舌が痺れるほどだ。

昨夜、この男は彼女を献身的に世話してくれていた。今日もわざわざ戻ってきて、彼女に説明してくれた。彼女も彼と一緒に昼寝をして、まるで愛し合う夫婦のようだった。それが今…

彼は時に優しく、時に冷たい。彼女の心はこのままでは壊れてしまいそうだ。

やっぱり早く離婚したほうがいい。

松本若子は胸の中の悲しみを堪えながら、ポケットから携帯を取り出し、番号を押した。

すぐに電話が繋がり、彼女は笑顔で話し始めた。「おばあちゃん、私です。最近、体調はいかがですか?」

「明日、修と一緒におばあちゃんに会いに行こうと思ってるんです。一緒にご飯でもどうですか?」

「うん、明日の昼に修と一緒に伺いますね」

そう言って、彼女は電話を切った。

松本若子は藤沢修に向き直り、「じゃあ、明日の計画を立てましょう。私が明日、おばあちゃんを引き止めておくから、その間にあなたはおばあちゃんの部屋から戸籍謄本を取ってくるのよ。それを持って離婚手続きを済ませて、何事もなかったようにまた元の場所に戻しておけば、おばあちゃんには知られずに済むわ」

“......”

藤沢修は彼女をじっと見つめたが、何も言わなかった。その目には深い思いが込められていた。

松本若子は特に感情を表に出すことなく、続けて言った。「私たちが離婚したら、あなたはすぐに桜井雅子と結婚できるわ。でも、あまり派手にしないで。おばあちゃんには絶対に知られないようにね。あなたたちが本当に愛し合っているなら、形式なんてどうでもいいじゃない」

彼女の声は平静そのもので、まるで何も感じていないかのようだった。すでに麻痺しているのかもしれない。

彼女には、もうどうしようもない。

夫が自分に離婚を求め、他の女性と一緒になりたいと言っているのだから。彼女にできることはもう何もない。彼女はこの男を愛している。

愛して、胸が張り裂けそうになるほど。しかし、放してあげる時が来たのだ。それでなければ、もっと傷つくことになるだろう。

しばらくして、藤沢修はうなずいた。「わかった」

松本若子は苦笑いを浮かべ、「さ、ご飯を食べましょう。もう冷めてしまうわ」

「お前は食べるのか?」と藤沢修が尋ねた。
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status