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第109話

松本若子が石田華の家に着いたのは、だいたい10時過ぎだった。

石田華はベッドに横たわり、老眼鏡をかけて本を読んでいた。

彼女は松本若子がやって来たのを見ると、すぐに本を置き、笑顔を浮かべて「若子、来たのね」と言った。

「おばあちゃん」松本若子は満面の笑みを浮かべ、ベッドのそばに座り、「何の本を読んでいるんですか?」と尋ねた。

「恋愛小説よ」石田華が答えた。

松本若子は好奇心から本の表紙をちらっと見た。それは確かに、少女心溢れる恋愛小説だった。彼女は驚いて言った。「おばあちゃん、恋愛小説なんて読んでるんですか?」

「どうして?年を取ったからって恋愛小説を読んじゃいけないのかい?」石田華は真面目な顔で答えた。「若い人だけの特権だと思ってるの?あんた、私をバカにしてるんじゃないだろうね?」

その声は少し厳しかったが、石田華は本気で怒っているわけではなかった。

「そんなことないですよ!おばあちゃんが少女心を持ってるなんて素敵です。私、そんなおばあちゃんが大好きですよ」

松本若子は、本当に年を取っても童心を持っている人が好きだった。そんな人は、人生の深みを楽しむことができるように思えた。

年齢によってやるべきことを決めつけるのではなく、成熟を装って世俗的になるなんて、つまらないことだと彼女は感じていた。

彼女は、いつか自分も年老いて歩けなくなった時でも、恋愛小説を抱えて、物語の中でヒーローがヒロインを愛する場面に心を踊らせ、「カップル大好き!」と思えるようでありたいと願っていた。

ただ、その時自分は、おばあちゃんのように一人きりでベッドに座っているのだろうか?

松本若子の祖父は10年以上前に亡くなっていた。彼女は会ったことがなかったが、10年前に石田華が彼女を引き取った時は、今ほど年老いてはいなかったことを覚えている。

当時、石田華の健康状態は良好だったが、10年の歳月が経ち、今では背中が丸くなり、顔には深い皺が増え、髪もほとんどが白くなっていた。松本若子の胸に、突然悲しみが押し寄せた。

すべての人には、いずれ訪れる「終わり」の時がある。歴史の長い流れの中で、誰もが去らなければならないのだ。

おばあちゃんの年齢を考えると、松本若子の心に一瞬、強い痛みが走った。彼女はおばあちゃんが去ることを想像することができなかった。

彼女はおばあちゃんを手放
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