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第113話

藤沢修は料理をテーブルに並べ終えた。「早く戻ってほしいって言うのか?」

「ええ、戻ってちょうだい」桜井雅子は微笑んで答えた。

「君が電話してきて、無理にここに来させて、あれこれ手伝わせてたのに、今になって急いで戻れっていうのか?」藤沢修は皮肉っぽく言った。

しかし、その言葉には本当の皮肉の意味はなく、むしろ親しい間柄での冗談のような感じだった。

「まあ、修ったら、そんな細かいこと気にしないでよ。私だって、あなたが離婚しに戻るなんて知らなかったもの。もし知っていたら、絶対に引き留めたりしなかったわ。私はあなたを愛してるんだから、私の気持ちくらい分かるでしょ」

桜井雅子は可哀そうな表情で頭を下げ、ますます声が弱々しくなっていった。

「君はここで俺を引き止めていたいんじゃないのか?本当に俺を戻らせて、若子やおばあちゃんと食事させたいのか?」

彼はもう一度確認した。

「早く行って。待たせたら悪いもの」

桜井雅子は、これまでになく積極的だった。彼女は初めて、修が早く帰ることを望んでいた。「若子一人じゃ、きっと不便でしょ」

彼女の目には、その焦りが隠しきれないほど表れていた。

藤沢修もそのことを理解していたので、特に気にすることはなかった。

ただ、自分でもよく分からないが、桜井雅子が彼を引き止めると、彼はそのままここに留まってしまい、彼女に本当のことを話していなかった。

「じゃあ、昼食は君一人で食べてくれ」

「分かったわ。お昼ちゃんと食べるから、あなたは早く行って」

「分かった」藤沢修は横に置いてあったコートを手に取り、「じゃあ、行ってくるよ」と言った。

「携帯を忘れずに持ってってね」桜井雅子は、まるで賢い妻のように、両手で携帯を差し出した。

藤沢修は無言で携帯を受け取り、何も言わずにそのまま病室を後にした。

桜井雅子は長く息を吐き出した。

まさか、松本若子が言ったことが本当だなんて。修が何も早く話してくれなかったことが少し驚きだった。

おそらく、彼は自分が失望するのを恐れたのだろう。

修の言う通り、最後まで何が起こるかは分からない。

彼が自分を愛してくれていることは間違いない。そう思えば、桜井雅子の胸は甘い感情でいっぱいになった。

......

松本若子と石田華は、すでに食卓に座っていた。

料理は全て並んでおり、湯気が立ち上っ
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