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第073話

松本若子は藤沢修を見た瞬間、かつて感じたことのない違和感を覚えた。彼に対して、どこかよそよそしい気持ちが湧き上がっていた。

だが、彼が無事であることを確認すると、少し安心した。

それでも、彼女はもう心を痛めたくないと決心し、冷たい態度で言った。「何しに来たの?」

藤沢修は彼女の反応に眉をひそめた。「お前、今日退院するんだろ?だから見に来たんだ」

「ありがとう」松本若子は礼儀正しく答えた。

藤沢修の視線は遠藤西也に向けられ、不機嫌そうな表情を浮かべた。この男が彼女の周りから離れないことに、苛立ちを感じていたのだ。

「遠藤さんは、他人の奥さんと親しくなるのが好きなんだな」

「藤沢総裁、もし私の記憶が正しければ、若子はすでにあなたと離婚したと言っていましたが」

その瞬間、「若子」という名前を呼ばれたことで、藤沢修の目に怒りの炎が宿った。「お前、彼女のことを何て呼んだ?」

「私がそう呼ばせているの」松本若子は堂々と答え、遠藤西也を自分の後ろに引き寄せた。「彼とは友達だし、私はもう沈家の嫁じゃないの。彼が私の名前を呼ぶには何も問題ないでしょ?」

彼女の言葉は、藤沢修には怒る資格がないことをはっきり示していた。

藤沢修は遠藤西也が抱えているバラの花を見て、さらに苛立ちを覚えた。その赤いバラは彼の目に血のように映り、彼を一層憤慨させた。

彼は強引に松本若子の腕からバラを取り上げ、自分が持ってきた百合の花を彼女に押し付けた。「これはお前が一番好きな百合だろ」

そして、バラの花束を近くのソファに投げ捨てた。

松本若子は怒りを感じ、藤沢修の手から受け取った百合を、彼が捨てたバラの花の隣にそっと置いた。さらにバラの花束を丁寧に直し、わざと遠藤西也に向かって謝意を込めた視線を送った。

遠藤西也は穏やかに頷き、微笑んだ。

その様子を見て、松本若子は少しホッとした。少なくとも遠藤西也は冷静で常識的な人だった。

「藤沢総裁、私に会いに来たんですよね?もう十分見たでしょう。これから退院するので、他に何かご用はありますか?」

「藤沢総裁」って言葉を聞いて、藤沢修は淡々と言った。「悪い、伝え忘れてたことがある」

「何のこと?」松本若子は眉をひそめて聞いた。

「離婚協議書、父さんが破ったんだ。今、俺たちが離婚するのを絶対に許さないらしい」

その言葉を口にしたとき
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