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第074話

彼女はもう藤沢修を気にする必要がなかった。彼の目の前でも、言いたいことは何でも言える。どうせ彼女は後ろめたさなど感じていなかった。

藤沢修の表情は険しかった。

「じゃあ、僕はこれで失礼します」遠藤西也は最初から最後まで礼儀正しく振る舞い、藤沢修のように感情が揺れ動くことはなかった。その優しさが際立っていた。

「本当に申し訳ないわ、わざわざ来てもらって…」松本若子は少し申し訳なさそうに言った。

「会社に行く途中だから、気にしないで。じゃあ、僕はこれで失礼するよ。お大事にね」そう言って、遠藤西也は立ち去った。

松本若子は遠藤西也を見送ると、その笑顔も消え、再び藤沢修に対して冷たい表情を浮かべた。

そのとき、田中秀の呼び出し機が鳴った。彼女は仕事に戻らなければならなかったが、松本若子のことが気がかりだったため、藤沢修に言った。「小錦は胃の調子が悪いの。だから、もう彼女をいじめないで」

意外にも、藤沢修は今回は怒らず、「ああ」と短く返事をしただけだった。

「秀ちゃん、早く仕事に行って」松本若子も彼女に促した。

田中秀は頷いて病室を出た。

「帰ろう」藤沢修はソファに置かれた荷物を手に取り、自分が持ってきた百合の花を抱えたが、遠藤西也が持ってきたバラは残したままだった。

松本若子は当然、バラを置いていく気はなかった。彼女はバラの花束を抱え、藤沢修が不機嫌になるのを感じたが、彼は何も言わなかった。

二人が家に戻ると、家が妙に広く、寂しい感じがした。

彼ら二人がいない間、この家はまるで家ではなくなっていたかのようだった。

松本若子は自分でバラの花を花瓶に飾り、一方の百合の花はまだそのまま置かれていた。

「若奥様、この百合の花、どういたしましょうか?飾りましょうか?」と、執事が尋ねた。

「いいえ」藤沢修が近づいてきて、「捨ててくれ」と言った。

彼女が気に入らないなら、この花も必要ないということだった。

執事は花を抱え、少し残念そうにした。花はまだ新しく美しいのに、捨てるのはもったいないと思ったが、主人の指示には従わざるを得なかった。

彼が花を抱えて振り向いたとき、松本若子が突然声をかけた。「ちょっと待って」

執事が振り返り、「若奥様、何かご指示でしょうか?」と尋ねた。

「その花を飾ってちょうだい。捨てるのはもったいないわ」

花自体に罪はない
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