第2話

翌朝、私は階下で待っていた。

真央が美子を連れて降りてきたが、私を見ると、驚いて手に持っていた豆乳を慌てて美子に渡した。

「知美？なんでここにいるの？仕事は行かないの？」

私は皮肉っぽく笑いながら答えた。「なんでそんなに驚くの？学校があなたの会社の近くにあること知らないわけじゃないよね？」

「私を学校まで送ってあげようなんて考えはなかったの？」

真央は口を開けたまま何も言わなかった。美子というと、最初は明るく笑っているだけだったが、わざとらしく言った。

「この方は？真央さんの奥さんですか？すごく美しい方ですね。私なんか、全然おしゃれもできないのに......」

前世では美子とはほとんど関わりがなかったが、今世で、彼女が本当に「猫被り女」だと気づいた。

私は冷たく彼女を一瞥し、「美しさは無意味よ。外見だけのつまらない人を好む人もいるからね」と言った。

真央は私の言葉に何かを感じたのか、低い声で説明した。「こちらは新しく入った同僚の美子で、隣の棟に住んでいる......」

私は聞く耳を持たず、後部座席のドアを開けて座り込んだ。

美子は車のドアの前で戸惑っている。「真央さん、これ......」

真央は彼女の肩を軽く叩き、親切に助手席のドアを開けた。「美子、乗って。知美はあなたが細くて弱そうだから、車酔いしないか心配してるんだよ」

私は目を閉じて仮眠した。美子はその気遣いを理解したのか、黙っていた。車の中の雰囲気が少し息苦しくなったとき、私はわざと口を開いた。

「この車、乗り心地いい？」

美子は一瞬驚いた。「え？」

私は続けた。「これから毎日乗るんだから、不快だったら真央に車を変えてもらえばいいじゃない」

美子の顔が瞬時に赤くなり、真央は急いでフォローした。「知美、そういうこと言わないで。美子はそんなこと言わないよ」

私は冷笑しながら、用意していたミニカメラをこっそり前席の背もたれに押し付けた。

「そうなんだ。」

学校の前に着くと、真央が珍しく車のドアを開けてくれた。私が降りると、彼は真顔で尋ねた。「知美、一体何がしたいんだ？」

「同僚を送るだけなのに、なんでそんなこと言うの？」

本当に笑える。

「何がしたいかって？ただ、あなたたちを不快にさせたいだけよ！」

この件が終わったと思っていたら、翌朝、私の携帯が様々なメッセージで溢れかえった。

私は驚いてLINEを開くと、友達や同僚から次々と私宛にメッセージを送っていた。「知美、これが真央の女同僚？なんだか嫌な感じ」と。

友達が送ったスクリーンショットを開くと、美子がソーシャルメディアで泣きそうな顔をしていた。キャプションにはこう書かれていた。「こんなこと初めてで、どうしていいかわからない。私はただ乗せていただいただけなのに、まさか......」

どうやら彼女は車の中の出来事を大げさに発信していた。

アカウントを辿ってコメント欄を開くと、やっぱりほとんどが私を非難しているコメントだった。

「同じマンション、同じ会社なのに、送ることすらできないの？」

「いい同僚だけど、嫉妬深い奥さんがいて可哀想。もっと心広くしなよ！」

「美子ちゃんは可愛いから、タクシーは危険だよ！女同士助け合うべきだよ」

私はそんな同調的なコメントに笑いそうになり、匿名で返信した。「あなたも霧島市にいるんですね。そんなに優しいなら、あなたの夫に送ってもらえば？」

すぐに返信が来た。「あんた誰？私の夫がなんで彼女を送らなきゃいけないの？彼は彼女の夫じゃないし！」

言っていることが矛盾しているじゃないか。

私は夢中で返信していたところに真央が帰ってきた。時刻は夜の10時過ぎだった。

彼はまずテーブルを見て、それからソファにいる私を見つめ、不満そうに言った。「知美、今夜はどうして夕飯を残しておいてくれなかったの？」

私は顔を上げずに言った。「もうお腹いっぱいなんじゃないの？」

彼は眉をひそめ、ゆっくりと言葉を選ぶようにして言った。「残業してやっと帰ってきたのに、君はそんな風に扱うのか？」