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第3話

話を言い終えると、綾夏は急に血を吐き出して、気を失った。

私は一瞬驚きで固まって、この薬の薬効の効き目で感心していたが、表ではその場面に相応しい悲痛な表情を被っていた。

「綾夏!綾夏!」

衛兵は慌てて綾夏を部屋に寝かせたあと、急いで侍医探しに出ていった。

もう気が遠くなるような時間が経過したあと、衛兵はやっと帰ってきたが、彼の後ろについてきてれる人が誰一人もいなかった。

私は皺を眉間によせた。

「侍医はどこじゃ?」

少し沈黙を保った衛兵は最後にこう言った。

「全員藍璃天女のところに......」

「藍璃天女の侍女の方々が星雲殿の門のところで道を塞いで、それがしを通さなくて、景河殿も景山殿も藍璃天女のお側に......」

私は歯を食いしばって、飛び出していった。

何しろ、芝居だとはいえ、真実感を与えてやらないと困るのはこちだ。

......

星雲殿ないでは、烏森はいかにも衰弱しているかのように、景河の懐に寄りかかっていた。

一方で、景山は自身の法力を消費して彼女の傷を癒してあげていた。

烏森の侍女はなんの迷いもなく、私を止めた。そして、軽蔑に満ちた目つきで私を見た。

「待ちなさい!藍璃様が今中で傷の手当てをしておられる!誰であろうと通せませんぬ!」

私は冷たい目つきでその侍女を睨みながら、彼女の頬を引っ叩いた。

「我は王妃じゃ!我を通さないとは肝の座っておること!」

門のところでの騒ぎは明らかに中にいた彼らにも聞こえていた。私は、景山が「彼女を通しなさい」と言ったのを聞いた。

その侍女は悔しそうな表情で私を見たが、大人しく道を開けた。

私は早足で中へ入って、侍医の一人を引っ張って出ようとした。

「待ちなさい!」

私は少々躊躇ったが、やはり星雲殿を出ることにした。

景山の口振りは、微かに怒り気味だった。

「月島和葉!そなたは何をなさっておる?!」

その場に足を止めた私の両目は、私が振り向いた瞬間に真っ赤になった。

「それを我に聞くものか。むしろ殿のお二方は、ご自分のなさっておることは果たして何なのかを自分に問いかけたほうがよろしいのでは?!」

私は人差し指で、烏森を自分の懐に寄りかからせた景河を指した。

「景河殿!お言葉ですが、あのまま放置されておられたら、綾夏殿は命を落とすのやめしれぬ。そなたは、それを分かっておるおつもりで、かようなことを?」

「綾夏殿はただの人間じゃ。霊力もなかれば法術も使えませんぬ。侍医のお薬は、傷を負った彼女の唯一の頼りなのじゃ!」

景河は全然顔をあげてくれず、業をにやしたかのような口で言った。

「あれは死なないのじゃ」

私は彼の返事で固まったが、根気強く言い返した。

「景河殿、何を言っておられる!お戯は」

景河は私の反応にやついた。

「月島は寝返って魔族と内通したのじゃ。離縁されなかっただけで命拾いをしたようなものじゃ。侍医に見てもらうなんて図太いのう」

「魔族の連中は、あれに深傷を負わせないじゃろう」

それを聞いては、私は何もかもが分かったのだ。これはまた、綾夏に濡れ衣を着せるための烏森の自作自演だったこと。

他たちに言い返そうとしたが、衛兵がちょうどその時に飛び込んできた。

「殿!大変じゃ!王妃様は......傷が深すぎたようで、もう他界してしもうた......」

私はすっかりと固まってしまって、力が抜けたように床に座り込んだ。涙が止まらなく、一粒つづ、ぽつんと落ち始めた。

がばと顔をあげた景河は、急に何かを思い出したかのように、八の字をよせながら衛兵にそう言った。

「綾夏も立派になったものじゃ。今やおぬしまで買収できるになってきておる」

私は景河に視線を向けながら、立ち上がって涙を拭いたが、声が潤んでいた。

「そなたはそれを信じまいか」

「綾夏殿は今、偏殿におられる!信じまいであれば見にゆけば!」

「お戻りになられた時の綾夏殿は、体中傷だかけじゃった!」

景河は私の言葉で煽てられて、立ち上がって私の前にきた。

「よかろう、其奴がまたなんの小細工をしておるのか見にいってやる!」

「一つ言うておくが、魔族と内通したのはすでに死に値する重罪じゃ。もちそれを上回って、己の命で戯れをしておるとなれば、余であっても、其奴を守れきれないじゃぞ!」

私は返事をする代わりに、鼻で笑った。

景河は衛兵と共に、慌ててその場を去ったと思えば、景山の声が私の耳に入ってしまった。

「藍璃、気がつけたか」

烏森は緩やかな口調で返事代わりに言った。

「和葉殿、申し訳ございませんぬ。妾がいけませんでした」

「まさか景河殿が、綾夏殿をその場に置いておくなんて想像もつきませんでした......」

ただでさえ心頭を覆っていた怒りの炎が、その一瞬で燃やされた。私は前へ出て、烏森の髪を手に取り、強くひ引っ張った。

「いい加減になさい!烏森藍璃、おぬしのその三文芝居をやめんか!」

烏森は泣きながら頭を左右に振って、痛みのあまりに悲鳴をあげた。

口を開こうとしていた突端、私は頬をしっかりと引っ叩かれた。

顔から火が出るような、ビリビリした痛さだった。

景山は凍りつくような目で私を見て、言った。

「そなたこそ、茶番をよしになさい!藍璃そのこととは無関係じゃ!」

涙が再び私の目元から落ちてきた。涙で視線がぼんやりとなっていた瞬間に、私は景山の顔からほんの僅かだったが、取り乱しを読み取った。

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