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泣きぼくろの証明
泣きぼくろの証明
著者: 新紅双喜

第1話

著者: 新紅双喜
last update 最終更新日: 2024-11-27 10:15:14
夫の佐々木健一が死んだ。家のベッドで、見知らぬ女と一緒に死んだ。

2021年8月2日、夏の日のこと。

出張から福岡に戻った私は、家に入るなり腐臭に襲われ、思わず何度もえずいてしまった。

急いで窓を全開にして換気し、鼻を押さえながら臭いの元を探し始めた。

「健一......」

何度か呼びかけたが、返事はない。

家具に積もった埃を見て、すぐに察した。

佐々木健一はまた麻雀に行っているのだろう。

私がこの数日家を空けている間、きっと外で賭け事三昧だったに違いない。

こんなことはもう何度目だろう。

この男に対して、もはや何の期待も持てなくなっていた。

今や頼れるのは自分だけだ。

疲れ切った体を引きずりながら、家中を探し回った。

一通り探したが何も見つからず、寝室へ向かった。荷物を先に片付けてからまた探そうと思ったのだ。

しかし、寝室のドアを開けた瞬間、強烈な腐臭が鼻を突いた。

そして目に飛び込んできたのは、一人の男と女の姿だった。

男は夫の健一だった。

そして、見知らぬ女と二人でベッドに横たわっていた。

二人とも裸で、その体はすでに膨れ上がり黒ずんでおり、悪臭を放っていた。

茶色がかった血液がシーツや床に広がっていた。

その凄惨な光景に、私は驚きと悲しみで立ち尽くした。

私は口を押さえたまま、呆然とドア口に立ち尽くしていた。

我に返った時には、涙が止まらなかった。

夫の裏切りなど、全く予想だにしていなかった。

力なくリビングへ戻り、震える手で嗚咽しながら警察に通報した。

警察はすぐに駆けつけてきた。

彼らは手際よく、一人が私への事情聴取を担当し、他の者たちは現場を封鎖し証拠採取を行い、マンションや団地の防犯カメラ映像も調べ始めた。

家には大勢の人がいたが、それでも私の心から恐怖は消えなかった。

ソファーで体を丸めながら震える私に、田中刑事が質問を続けた。

「この数日、大阪へ出張していたんですね?」

「はい」

私は目元の涙を拭った。

「ご主人とは普段どんな仲だったんですか?」

私は黙って首を振り、少し悲しさが込み上げてきた。

「良好とは言えませんでした。

彼が半年前に失業してから、私たち夫婦関係は日に日に悪化していきました。

出張前日も、このことで口論になったばかりです」

「原因は何だったんですか?」

田中刑事が尋ねる。

私は苦笑いした。

「彼はとてもプライドが高い人でした。

でも、分からなくもないんです。妻に仕事で劣っているなんて、誰だって認めたくないですよね。

でも、私には選択肢がなかったんです。

車のローンに住宅ローン、それに彼は失業して家でぶらぶらしているだけ。

彼の言う通り仕事を辞めてしまったら、これからの生活費はどうすればよかったんでしょう」

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  • 泣きぼくろの証明   第2話

    私が少し感情的になったので、田中刑事はそれ以上質問せず静かに見守っていた。ふと顔を上げると、田中刑事はテレビの前に立ち、私と健一の結婚写真をじっと見つめていた。時折こちらを見るその視線には、何か探るようなものが感じられ、少し居心地が悪くなった。「目元のほくろ、取られたんですか?」彼が写真を指差した場所を見つめ、私は思わず右頬の、目尻の下あたりに手が伸びていた。「健一が気になると言うので、美容クリニックでレーザー治療で取りました」田中刑事は頷き、それ以上質問することはなかった。その時、部屋から警官や法医学者たちが二つの遺体を運び出してきた。涙で目が赤くなりながら、私はただ呆然と、佐々木健一と彼女の遺体が運び出されていくのを見つめていた。「亡くなったのは、いつ頃なのでしょうか」法医が答えた。「現段階では死後およそ5日と推定しています。正確な時刻については、検視の結果を待ちたいと思います」7月は31日まである。5日前というと、私が出張に出た28日ということになる。「まさか、私が出張した日が彼の命日になるなんて......もし出張に行かなければ、こんなことには......」田中刑事は何も答えず、二、三の慰めの言葉をかけた後、当面はホテルに滞在するよう勧めてきた。ここは現場なので、無意識のうちに証拠を損なう恐れがあるからだという。私もそれはもっともだと思い、気持ちを整理して、この辛い場所を後にした。

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    6月29日の夜。父親になると知れば、きっと更生してくれるはずだと、淡い期待を抱いていた。彼が嫌がっていた泣きぼくろさえ、わざわざ取ってもらった。その夜、彼が帰宅したのは深夜1時を回っていた。ソファで待ち続けて眠っていた私は、彼の物音で目が覚めた。酒の臭いを漂わせる彼を見て、思わず口を滑らせてしまった。「いい加減にして。いつも友達と飲んでばかりで、まともな生活できないの?」その一言が、全てを狂わせた。彼は私を殴り倒し、容赦なく暴力を振るい続けた。妊娠していることを必死で訴えても、獣と化した彼の暴力は止まることはなかった。そして私は、赤ちゃんを失った。

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