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第7話

Author: 新紅双喜
鈴木力也の事件はすぐに解決した。

彼がどれだけ言い逃れしようとも、科学技術の前では無力だった。

ある機器による分析や現場に残された数々の痕跡から、鈴木力也は真実を白状した。

佐々木健一と高橋月子は確かに彼によって殺されたのだ。

事件当日、彼が現場に着いた時、大門は施錠されておらず、中に入ると二人がベッドで寝ているところだった。

それを見て激怒した鈴木力也は台所から果物ナイフを持ち出し、そのまま二人を殺害した。

鈴木力也は犯行の一部始終を話し出した。

ただ一点だけ、彼は譲らなかった。

それは事件当日、自分が私と会ったということだ。

さらに、その時私自身が「例の手紙」を彼に渡したとまで言っていた。

これらは全て付き添いの女性警官から聞いた話だった。

しかし、この件について私は即座に鈴木力也の主張を覆す証拠を提示できた。

なぜなら事件当日、私はすでに飛行機で大阪空港に到着していたからだ。

事件は解決した。

しかし奇妙なことに、それ以来田中刑事は姿を見せなくなった。

鈴木力也に死刑執行猶予の判決が下された日、一ヶ月以上も姿を消していた田中刑事が突然私を訪ねてきた。

「さぞ満足だろうね。全てが君の思い通りになったわけだから」

私は一瞬言葉を失った。

「それってどういう意味ですか?」

田中刑事は答えず、テレビの方へ歩み寄り、壁に掛かったウェディング写真をじっと見つめた。

「川村澪と呼ぶべきか、それとも川村美鈴と呼ぶべきか」

彼は急に振り向き、鋭い眼差しで私を見据えた。

「君は川村美鈴さんだよね」

「申し訳ありませんが、何のお話かわかりません」

私は首を振った。

田中刑事は笑みを浮かべた。

「わからないなら、私から説明しようか」
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