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第9話

車のスピードは限界に近いくらいまで上がっていた。それでもお父さんは、さらにアクセルを踏み込んでいた。

バックミラーに映る彼の目は赤く充血していて、そのまま猛スピードで走り続け、ようやく病院の前で車を止めた。私が診断を受けた、あの病院だ。

お父さんが車を降りたとき、その足取りはよろけていて、受付にたどり着くと、私の診断書を握りしめながら必死に私の病状を尋ねていた。

けれど、医師は冷静に告げた。「病院は患者のプライバシーを簡単に漏らせません」と。

お父さんの表情が一気に崩れて、握りしめた診断書をさらにぎゅっと掴んだ。目を真っ赤にして、受付の医師を睨みつけると、ついに叫んでしまった。

「この診断書は、私の娘のものだ!私は彼女の父親なんだ!どうして娘の病状が分からないなんてことがあるんだ、どうしてだ!」

言葉を最後まで言い切る前に、声が震えて涙がこぼれていた。医師はその様子に驚き、急いで主任を呼びに行った。

お父さんは主任の後に続いて、すぐに医師のオフィスに入ると、焦った様子で私のことを必死に伝えた。主任は眼鏡をかけ直し、診断書をじっくり読み返してから言った。

「この子のことは覚えていますよ......診断が遅すぎたんです。もう少し早く来ていたら助けられたかもしれないのに。ただ、そのとき私は言いましたよ、痛みを和らげる薬ならありますから、治療を続けましょうって。でもその後、彼女は二度と病院には来ませんでした。

その時の服装や持ち物を見る限り、家庭には少しはお金があるように見えましたが......どうして娘さんを治療に連れて来なかったんです?この病気はかなり辛いはずですから」

その言葉は雷のようにお父さんを打ちのめし、彼は動けなくなってしまった。

あの日、私が治療費を求めに彼のもとを訪ねたことを、お父さんは思い出していた。

お父さんは顔を両手で覆って、消毒薬の匂いが充満する狭いオフィスで、泣き崩れた。息もまともにできないほどに、嗚咽がこみ上げていた。

そのそばに座っている私の魂は、静かに彼を見つめていた。

お父さんはようやく気づいた。私は嘘をついていたんじゃない。

私のために速度オーバーで車を飛ばしてきて、今も私のために泣いている。彼はついに、私という存在を少しだけでも大切に思ってくれたのかもしれない。

でも、遅すぎる。全てが、あまりにも遅すぎ
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