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第5話

その時、医者に言われた。「病気はもうかなり進行していて、残された時間もそう長くない」と。

私は軽くうなずいて、小声で言った。「大丈夫です。死ぬのは怖くありません......ただ、痛いのがちょっとだけ怖いんです」

医者は、「非常に高価だけど、痛みを和らげて少し寿命を延ばせる薬がある」と教えてくれた。

「お家はお金に困ってなさそうだし、両親とよく話し合って早めに入院してくださいね。でないと、これからどんどん痛みが強くなりますよ」と、医者は優しく告げた。

私は引きつった笑みを浮かべて、「ありがとうございます」と礼を言いたかったけれど、どう頑張っても顔は悲しみに引きつったままだった。

両親?私はもうとっくに母親を失ったし、今となってはお父さんももう父親じゃなくなったみたいだ。

お父さんは毎月、私の口座に生活費を振り込んでくれている。多くもないけど、かといって少なすぎることもない。つまり、私が一切かかわらなければ生きていける程度の金額。それが私たちの関係だった。

でも今度ばかりは、どうしてもお父さんに会いに行かないといけなかった。痛みが怖いから。でも、口座の残高じゃ薬代はまったく足りない。

家に帰らない日が続いていたお父さんを追って、私は撮影中の現場へ向かった。

そこには美羽もいた。彼女は私の一つ上だけど、お父さんに連れられて子供のころからずっとそばで育てられてきた。そして今では、俳優になりたいと自分で言い出したせいで、現場で一緒に学んでいるらしい。

お父さんが仕事中の間、私は部屋の外の小さなベンチに座って待つことにした。

美羽は私に気づいているのに、わざと見ないふりをして、そのまま周りの人たちと楽しそうに話している。どうせ見ないつもりなら私も見たくないと、私は俯いて病気で痩せた手をじっと見つめ、口を引き結んだ。

でも、彼女と話していたスタッフのひとりが私に気づいて、ひそひそ声で話しかけるのが聞こえてきた。

「ねえ、あれが月夜さんの娘なの?すごくガリガリで、ひどく不細工じゃない?月夜さんの娘にしては似ても似つかないね」

「ほんとに実の娘なのかなあ。美羽ちゃんのほうがずっと綺麗だし、月夜さんの娘っていう感じにふさわしいよ」

光を反射したガラス越しに映る自分の姿が見えた。痩せて干からびた四肢に、病のせいで青白くなった顔。まるで幽霊みたいに気味が悪い顔
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