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第10話

「彼女は本当に......そんなに優秀なんですか?」お父さんは視線を落とし、誰にもその目の奥の感情を読ませないまま、ぽつりとそう尋ねた。

「もちろんですよ。何年も教えてきましたが、彼女のような生徒は滅多にいません。本当に立派な子ですよ」

目頭が少し熱くなった。だけど、それはお父さんのためではなく、この先生のためだった。名前も知らない先生だけど、私のことを知ってくれていた。

私が知らないところで、私を評価してくれる人がちゃんといた。私の人生は、思っていたほど惨めではなかったんだ。

お父さんの手が、わずかに震えているのが見えた。

そして、先生が「彼女は一週間の欠席届を出しており、ここ数日は学校に来ていない」と告げたとたん、お父さんの平静さが一気に崩れ去った。

「学校にもいない、家にもいない......じゃあ、一体どこにいるっていうんだ!」

お父さんは声を荒げ、焦りを隠しきれなくなっていた。その時、ポケットの中でスマホが鳴り響いた。慌ててスマホを取り出し、画面を確認する。

見知らぬ番号が表示されているのを見て、お父さんは肩を落とした。「詩凜じゃないのか......」

......そんなに、私からの電話が欲しいの?

お父さんが電話に出ると、相手の男性の厳しい声が響いてきた。そして―

『パシッ』お父さんの手からスマホが床に落ち、その衝撃で画面が粉々に砕けた。でも、そんなことを気にしている場合ではなかった。

電話の相手はこう告げてきたのだ。「遺体の確認に来てください」と。

冷凍された遺体安置所の中、誰もが神妙な面持ちで立ち尽くし、張り詰めた空気の中で呼吸すら控えめにしていた。お父さんは私の遺体の周りを何度も歩き、まだ信じられない様子でつぶやいていた。

「そんな......そんなはずがあるか?

こんなの、詩凜であるわけがない......」

お父さんは急に思いついたように、顔を上げて言った。「分かったぞ......詩凜、お前、彼らと一緒に俺を騙してるんだろ?お前が学校に行かなかったことなんて、もう怒らないから。さあ、目を覚ましてくれ!

今すぐ起きれば、お父さんは何も咎めない。こんな悪い冗談、もうやめにしよう。詩凜、お父さんを怒らせないでくれ」

その様子を見ていた警官の一人が、重い口調で言った。「結果は嘘をつきません。これは間違いなくあなたの娘さん
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