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第2話

星月美羽は、周囲の人垣の隙間から私の遺体をのぞき込んで、ちょっとだけ残念そうな口調で言った。

「可哀そう......」

その場にいた人たちはみんな、「なんて優しい子だ」と美羽を称賛する。でも、彼女の清純でおとなしい顔の下にどれだけの卑劣で残酷な心が隠れているか、私だけは知ってる。

もし彼女がいなかったら、私はここまで追い詰められなかったかもしれない。だけどもう、「もしも」なんてない。お父さんは彼女を選んで、私を捨てた。間接的に、私を追い詰めて殺したのは間違いなく二人なんだ。

警察を呼んだ後、監督が心配そうな顔でつぶやく。

「こんなことが起きてしまって、これで撮影スケジュールもずれこむなあ......それにしても可哀そうに......亡くなった子は顔が分からないけど、年も若そうだったし、惜しいことだ」

するとお父さん、冷哉は後ろに数歩下がると、冷めきった目でため息をつき、こう言った。

「今の子たちは、ちょっとメンタルが弱すぎる。すぐに自殺だなんだって......どうせそんな程度のことで死ぬんだ、放っておけ」

......放っておけ?

その言葉を聞いた瞬間、泣き笑いみたいな声が私からもれた。立っていることすらできなくなって、その場にしゃがみ込んで膝を抱え、心臓が誰かにぎゅうっと締め上げられるような痛みを感じた。

もう死んだはずなのに、病気の痛みからも解放されたはずなのに......どうして心だけは、こんなにも苦しいんだろう。

言葉の棘が病気よりもずっと鋭く突き刺さってくるみたいに、痛くてたまらない。

美羽は隣で、いかにも可愛らしい笑顔を浮かべながら言う。

「月夜おじさま、心配しないでください。私はあんなこと絶対しませんから......ただ、この子を見てると、詩凜ちゃんを思い出しちゃいますね。もう何日もお返事くれなくて、ちょっと心配なんです」

こんなときですら、美羽はお父さんに私への不信感を吹き込むのを忘れない。

お父さんは口元に冷たい笑みを浮かべ、あっさりと答える。

「あいつはいつも我がままで、手のかかる奴なんだよ。お前も心配するな。お母さん譲りのろくでもない性格で......やれやれ、ほんとどうしようもない」

母さんのことを話すとき、彼の冷笑はさらに深くなる。

「だけど......女の子がひとりでふらついてるのも危ないですよね、何か事件に巻き込まれたりしたら......」

美羽はわざとらしく表情を曇らせ、心配そうな素振りを見せる。でも私は見逃さない。彼女のその瞳の奥には、私が本当に事故にでも遭ってくれればいいっていう悪意が渦巻いていることを。

お父さんはため息をついて、美羽の頭をぽんと撫でて言った。

「お前は本当に優しいなあ、いつもあいつにやりこめられてばかりなのに。詩凜なんて、どうでもいい。むしろあいつが外で死んでくれたら、こっちもやっと気が楽になるのに......」

心臓がさらに締め付けられるように痛む。やっぱり、お父さんは本気で私が死んでも悲しくなんてならないんだ。

......きっと、この遺体が私だと知っても、やっぱり同じ反応をするだけなんだろうね。

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