共有

第333話

土下座して謝れ!!

葵は信じられないという顔で目の前の男を見つめ、下ろした手をぎゅっと握りしめた。

もし紗枝が昇と組んであの動画を公開し、自分を失墜させなければ、こんな状況にまで落ちぶれることもなかっただろう。それなのに、今では土下座して謝罪しろと言われるなんて。

だが、啓司の手段を思い出し、葵は仕方なく同意した。「分かりました、行きます」

葵は自分がどうやって牡丹別荘を出たかもわからないまま立ち去った。

彼女が去ると、清子が不思議そうに尋ねた。「拓司さま、どうして彼女に紗枝さんへの謝罪を強要したんですか?」

「啓司さまとずっとそりが合わないのに、今さら彼の奥さんを庇う必要があるんですか?」

清子がそう言い終えたとき、彼女は背中に冷やりとした視線を感じた。

普段は穏やかな拓司の視線が、どこか冷たく鋭かったのだ。「清子、君にはわからない」

清子は拓司と紗枝の過去を知らないため、それ以上は尋ねることができなかった。

「それでは、葵さんに人をつけて、ちゃんと謝罪するか見届けさせます」

「うむ」

二人は牡丹別荘には長居せず、すぐに立ち去った。

彼らが去ったあと、啓司と牧野も密道を通って牡丹別荘に入った。

牧野は、かつて社長が掘らせた密道がこんなふうに役立つとは思ってもみなかった。

啓司は記憶を失っているものの、牡丹別荘に戻ってからは何かを感じ取ったのか、機密書類がどこに隠されているのかを知っているかのようだった。

すぐに書類を見つけ出した。

帰りの車の中で、啓司はその文書を牧野に手渡した。

牧野は驚き、「社長、ご自身で確認された方が?」と提案した。

「君が裏切らないことはわかっている」と啓司は冷静に言った。

「はい」

牧野はやっと文書を開き、中身を確認した。

何気なく数ページを開いてみただけで、牧野は社長の個人資産が表向きの額だけでなく、海外にも数えきれないほどの資金があることに気づいた。

恐らく黒木グループの資産を遥かに超える規模だった。

自分が忠誠を尽くしてきた相手が間違っていなかったことを、牧野は改めて実感した。

「今すぐ退職し、新しい会社を立ち上げてくれ」と啓司はシートに寄りかかりながら言った。「子供が生まれるまでに、紗枝ちゃんとその子に大きな贈り物をしたいんだ」

元々牧野も新しい会社の設立を提案していたが、啓司は
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status