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第336話

啓司は、かすかに五年前の記憶の断片を思い出し始めていた。

二人が結婚した際、彼が紗枝を一人置き去りにしたこと。

紗枝の父が亡くなったとき、涙に濡れた彼女の顔をよそに、啓司は夏目家の裏切りにばかりこだわり、彼女を気にかけなかったこと......

啓司はもっと思い出そうとしたが、頭がますます痛み始め、

それ以上考えるのをやめて、出雲おばさんの方を向いて言った。

「出雲おばさん、ご期待には応えられません」

驚いた出雲おばさんが返答する間もなく、啓司は続けた。

「僕は自分が愛する人が他の男と結ばれるのを、黙って見ていることはできません。変わると誓います、必ず紗枝を大切にして、二度と傷つけません」

だが、出雲おばさんはその言葉に信じを置いていなかった。「何を言っても、あなたの今の変化なんて、目が見えないからでしょ。もしちゃんと見えていたら、紗枝を大事にするわけがない」

啓司には返す言葉がなかったが、彼は心の中で、出雲おばさんに自分の変化を見せて信じてもらうしかないと決意していた。

苛立ちを抱えた出雲おばさんは、黙って部屋へ戻っていった。

啓司は帰宅後まだ食事をしておらず、紗枝もまだ戻ってきていなかった。介護士が「夏目さんは、ここ数日戻らないかもしれません」と言っていた言葉が頭をよぎる。

啓司はスマホを取り出し、紗枝に電話をかけた。

一方、紗枝は既に桃洲市に到着しており、彰を保釈した後、唯と景之に会いに行っていた。

食事をしている最中、啓司からの電話に気づいた紗枝は、外に出て電話を取った。

「何か用?」

「今、どこにいる?」と啓司は単刀直入に尋ねた。

紗枝はそっけなく答えた。「私がどこにいるかなんて気にしなくていい。この数日は自分のことぐらいちゃんと面倒みなさいよ。出雲おばさんの世話も介護士に頼んだから、しばらく戻らないからね」

啓司は彼女の言葉を聞きながら、彼女の電話が繋がっているIPアドレスを調べるよう指示を出していた。

すぐに、紗枝が桃洲市にいることを知った。

彼女が一人で桃洲市へ行く目的がわからず、啓司は心配になり、車を手配させて自分も向かうことにした。

「じゃあ、気をつけて。何かあったら、僕に電話して。最近寒いから、もし冷え込んできたら......」

その時、唯が外から顔を覗かせたため、紗枝は話を遮り、急いで電話を切った。

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