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第324話

夜更け。

紗枝は出雲おばさんの世話をしてから、自分の部屋で横になった。

眠りに入って間もなく、背後から突然誰かに抱きしめられた。「紗枝ちゃん」

啓司がいつの間にか部屋に入ってきて、一方の腕で彼女をしっかりと抱きしめ、もう一方の手を彼女の下腹部に添えた。

「啓司、あなた何してるの!?」

記憶を失っても、相変わらず夜中に人の部屋に忍び込む癖は直っていないらしい。

啓司は最初、彼女に触れるつもりはなかった。しかも妊娠初期だから尚更控えるべきだと分かっていた。

だが今日、紗枝が密かに辰夫に会っていたことや、牧野から聞いた話を思い出すと、彼の唇は彼女の耳元に落ちた。

熱い吐息が紗枝の首筋をくすぐり、彼女は思わず震えた。「啓司、やめて!」

言い終わると、彼女は隣の部屋で眠っている出雲おばさんに気づかれないように、口元を押さえた。

部屋には灯りがなく、啓司は裸のままで現れたらしい。雪の反射する薄明かりの中で、彼のたくましい上半身がうっすらと見えていた。

「すぐに…ここから出て行って」彼女は恐怖で声が震えた。

啓司は彼女の耳元で低く囁いた。「もし君が望むなら、こっそり僕にだけ伝えて。誰か他の男を頼るのは許さない」

「早く行って!」

紗枝は布団をしっかりと身体に巻きつけ、中に縮こまった。

啓司が部屋を出て行く際、紗枝は彼の腰に自分がつねった青黒い痕がまだ残っているのを目にした。

以前は、啓司が記憶喪失で視力も失っていることから、彼女は彼を簡単に扱えると思っていたが、今になって啓司が失った記憶によって、かえって彼が手に負えない存在になっていると感じた。

記憶を失う前の啓司は、どれほど反骨精神が強く、いつも他人を見下ろしているような、施しを与えるような態度だったか。

でも、記憶を失った今の彼は、まるで図々しい別人みたいだ。

啓司がまた戻ってくるのを防ぐため、紗枝は寝る前にドアに鍵をかけ、さらにタンスでドアを塞いだ。

一晩中、彼の言葉が頭から離れず、ろくに眠れなかった。

ようやく眠りに落ちた時、紗枝は夢の中で、大海に漂う小舟のように波に流される自分を見た。

目が覚めると、額には冷や汗が滲んでいた。

スマホを手に取ると、もう10時だった。

幸いにも、出雲おばさんは最近毎朝遅く起きる習慣になっていた。

紗枝が起き上がろうとしたとき、辰夫からメッ
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