寝室には紗枝のお父さんの遺品が並べられ、中にお父さんが画いた紗枝の絵が1枚あった。紗枝のお父さんが死んだ後、お母さんと弟が上手く会社経営できず、結局家にある貴重なものをすべて競売した。今回帰国して、紗枝ができるだけお父さんの遺品、特にこの絵を探していた。絵の中の紗枝は10代で、白いドレスを着てベランダに座り、大きな花束を持って微笑んでいた。 近づいて絵を見て、白髪のお父さんを思い浮かべてきた。 自分を絵に描いてくれたお父さんの優しい顔を思い出した。 手を伸ばして絵にそっと触れて、喉が少し詰まった。「この絵を二度と見つからないと思った」 お父さんが画いてくれたので、お金にはならないと思った。啓司が見つけてくれるとはどうしても思いつかなかった。いま現在の紗枝の表情を見て、今回、正しいものを送ったと分かった。彼は一歩一歩前へ歩いた。「これらの物を全部牡丹別荘に持ち帰ってもいいよ」牡丹別荘へ持ち帰ると、ほかの所へではなかった。彼はただ、できるだけ紗枝に離れるのを躊躇させたいだけだった。感情を抑えて啓司を振り向いて、彼女の目には感謝の意に満ちていた。「ありがとう」「今後喧嘩を売らないで、欲しい物、全部くれてやる」喧嘩を…紗枝の目が少し暗くなり、曖昧にうなずいた。 啓司はこの時、ブラックカードを取り出して彼女の前に出した。 「このカードを好きに使って」前、結婚した後、彼がいつも牧野に生活費を紗枝に渡してもらっていた。でも、紗枝が離れてから、牧野からのお金、彼女が一文も使わなかった。渡されたカードを見て、紗枝は喜ばず、首を横に振った。 「いらない、お金はあるよ」 啓司の手が空中で凍りつき、しばらく沈黙した後、彼はまた説明した。「僕たちは夫婦じゃないか?「これは僕の給料だ」 夫としてそうすべきかどうかわからなかった。 紗枝はそれを受け入れるしかなかった。どうせ一か月後に、お互いに何も関わることがなくなると思った。…1か月間夫婦を約束してから、啓司が全く別人のように変わった。毎日彼女にハグ、キスそして手繋ぎを求めてきた…仮夫婦じゃなく、まるで本当の結婚生活しているように感じた。 桑鈴町で3日間泊まって、2人は一緒に桃洲市に戻った。夜8時に、啓司が彼女を川辺に連れて行
「バン!」空に打ち上げられた花火が輝いてすぐ消えた。 隣にカップルがいて、女の子は男の子の手を掴んで言った。「私たちは永遠に一緒になろう」彼らの後姿を見て、紗枝は突然に恋をしたくなった。啓司のことが好きになってから、彼女は周りの人からの告白を断り、恋愛することなく、そのまま啓司と結婚した。恋愛を味わうことができなかった。暗い空を見上げて、紗枝の目に涙が湧いてきた。彼女は自分に言い聞かせた。「お父さん、後悔した」 啓司と結婚したことを後悔した。どうして自分を愛してくれない人を選んだのかを公開した。8時半、花火が終わった。 人群れが消えて行った。牧野が迎えに来た時、川辺に独り立ちにした紗枝を見て、寂しく思った。婚約者が一昨日に彼に言ったことを思い出した。相手を愛するなら、十分の安全感を与えなければならない。ほかの女の事で、二人の感情に影響を与えてどうする?あの瞬間、彼は紗枝のことをいくらか同情していた。車を止めて、彼は車から降りて紗枝の傍にやってきた。「紗枝さん、迎えに来ました」 紗枝は暫くして正気を取り戻した。落ち込む気持ちを抑えて彼を振り向いて丁寧に言った。「ありがとう」車に乗った。牧野はわざと車の温度を高く調整した。海外に長くいて、紗枝は体の調子を少し改善されたが、普通の人よりまだ痩せている。特に冷たい風に当たると、顔色が青白くなり、風に吹かれるとすぐ倒れるぐらいだった。牧野はバックミラー越しで彼女を見て、運転しながら啓司のために説明した。「葵さんは今夜、オタクファンにやられ、死ぬところだった。今は手術中で、啓司に最後に一度会いたいと言われた」オタクファン…紗枝は苦笑した。オタクファンなんかじゃなかっただろう?啓司に少し調べればわかるはずだったが。そして、葵なら、加害されるなどあり得ないだろう。それに、昇がまだ辰夫を捕まっているので、彼女を傷つけるチャンスはなかっただろう。彼女が自作自演しただろう。「うん」紗枝は一瞬止まって言い続けた。「知っている。彼が言った」牧野はほっとした。長い間啓司についたので、自分のボスが本当に紗枝のことが好きになったと気づいた。そうじゃないと、数年渡って探すことがなかった。それに、彼女のために仕事を手放して、わざわざ人に頼んで、紗枝の
牡丹別荘。紗枝が電話を切ってから、暫くして、辰夫から電話がかかってきた。彼女は急いで携帯を取り、辰夫からの話を聞いた。「今日、昇を連れて葵に会わせた」紗枝が吃驚した。まさか葵が昇るに傷つけられたのか?「あの女は彼の命を取ろうとしたよ。僕の人がいなかったら、彼はとっくに死んだ」最近、辰夫が昇るに葵の本性を知ってもらうためにいろいろ工夫した。でも、あの馬鹿男はずっと信じなかった。今日、わざわざ葵の家に辿り着いた。葵は最初に彼をなだめるふりをして、そして、彼の飲み物に睡眠薬を入れた。彼が眠りに落ちてから、彼女はガスを放出して、意外で死んだのを見せかけるつもりだった。幸いなことに、辰夫の部下に発覚されて、無理やり昇を連れ出した。葵はとても怖かったので、自害して、オタクファンが家に突入して彼女を殺そうとしたと早めに告発した…これらすべてを聞いた後、紗枝は吃驚した。葵がこんなに冷酷だと思わなかった。彼女の推理は間違ってなかった。いわゆる怪我は彼女が自作自演したものだった!紗枝の回答がなかったので、辰夫が心配した。「紗枝、大丈夫か」 「大丈夫だよ」紗枝は正気を取り戻して言った。「彼女がここまで冷酷だったとは思わなかった」「孤児の彼女がここまで来て、相当な手段がなければできないよ」そういうと、辰夫の目には不安な光が閃いた。「こんな人に注意しなよ」 彼は一息ついて、また慎重に聞いてきた。「妊娠の事は順調か?」紗枝はそれを隠さなかった。「既に手に入れた」 「よかった。早く逸之を連れ出して、エストニアに戻ろう」 紗枝は少し心配していた。彼女は警備が厳しく、病院とは全く異なり、逸之を隠した場所を見たことがあった。辰夫が景之を連れ出すには相当難しいと思った。「ちょっと数日待ってもらえる?啓司に自ら逸之を手放す方法を見つけだす」辰夫が彼女を助けるために傷ついたら、あるいは啓司の機嫌を損ねたらいけないと紗枝は心配だった。辰夫に沢山の借りを作った…一方、辰夫はベランダに立って、暗い夜空を眺め、喉仏を上下にさせた。ここ数日、戻った雷七から聞いて、紗枝がずっと啓司と一緒に居て、二人は親しかったと…妊娠のためだと分っても、辰夫は普通の男だった。男性である以上、好きな女性が他の男性と一緒にいるのをど
「心配しないで、僕がいる」辰夫が言った。 神楽坂は知っていた。辰夫はごまかすのを神楽坂が知っているが、やめてもらうことを言えなかった。「噂だが、黒木啓司の愛人が怪我した。彼は取引が上手いだが、どうして人を見る目がこんなに悪かったか?こんな尻軽女を選んだのか?」「そんなこと知りたくない」辰夫の顔は冷たかった。神楽坂は間違ったことを言ったと気づいた。黒木啓司は葵を愛人に持つだけでなく、辰夫の女神を奥さんにしたのだった。彼はすぐ話題を変えた。「いつ戻るの?」車窓の外を見て、彼の目は暗くなった。「もうちょっとして」神楽坂は心配し始めた。辰夫の兄弟たちは池田家の跡取り人の事で争っている。ずっとここにいると、ポジションが横取りされたら困る。…病院の中。 葵は病床に弱々しく横たわり、首に包帯で巻かれて、顔色が青白かった。「啓司君、怖いよ。本当に死ぬと思った」彼女の目に涙でいっぱいだった。これを聞いても何の慰め言葉もなく、ただ傍のボディーガードに尋ねた。「調べたか?」「調べで分かったが、最初に、葵のファンが彼女の部屋に入った。その後、やってきた黒い服を着た人達は池田辰夫の手先だった」ボディーガードが回答した。葵のファンが交通事故を起こして紗枝を殺そうとした人だと知らなかったので、啓司は深く考えなかった。葵がボディーガードの話を聞いて眉をひそめた。「池田辰夫の人…まさか紗枝が…」後の言葉を言い出せなかった。葵は話を替えた。「違う。紗枝はそんなことしない。私は彼女を傷つけなかったし、どうして私を殺すの?」昇を連れ去ったのが辰夫の人だと知って、彼女は怖くなった。早く反応して助かった。啓司は葵の言葉を聞いて紗枝に尋ねることはなかった。何を言っても、池田辰夫は池田辰夫で、紗枝は紗枝だった。「ゆっくり休んで」啓司が話し終えて離れようとした。葵に呼び止められた。「啓司君、最近会社に行ってなかったと聞いた。「残して付き合ってくれないか?」啓司が会社に行かなかっただけでなく、紗枝とずっと一緒だったことを聞いた。「ここにいても、君の病気に何の助けもできない。一番いいお医者さんに治療してもらう」「しかし…」啓司が他人に強いられることに一番嫌いと葵は知っているから、言葉を替えて言った。「余計な心配かもしれないが
啓司の目は赤くなり、夢中になって彼女を探し始めた。しかし、全ての部屋を開けても彼女はいなかった。彼はすぐ空港に人を行かせて彼女を止めようとした。裏庭に来て、空いている椅子に座っている紗枝をふとみて、緊張した心はほっとした。紗枝は眠れなくて、外で新鮮な空気を吸っていた時に、慌ててやってきた啓司を見かけた。今日帰ってこないと思った。彼女を見つけて、啓司は走ってきて彼女を抱きしめた。薄明かりの中で、紗枝は体がわずかに硬直し、赤くなった彼の目を気づかなかった。彼がどれほど焦っていたかも知らなかった。「こんな時間にどうして部屋じゃなかったの?」啓司の声はかすれて低かった。 彼の質問が可笑しいと紗枝は思った。「なぜこんな時間に私は部屋にいなければならないの?」啓司は喉を詰まらせた。 どう答えればいいのか分からなかった。さらに分からなかったのは、紗枝が消えるのを分かってどうしてそんなに慌てたのか?彼が回答する前、紗枝は再び聞いた。「葵は大丈夫か?」 「首を切られて、まだ病院で治療を受けている」啓司は正直に回答した。首を切られた…紗枝は彼女を敬服した。目的達成するために、彼女は本当に自害したよね。「犯罪者捕まったの?」 犯罪者と言うと、啓司の表情は少し冷たくなった。「ない」「でも、犯罪者は一人のファンを除いて、他の人達は全部池田辰夫のボディーガードだった」紗枝は啓司の胸にもたれかかり、これを聞いて、ゆっくりと彼を見上げた。 「これはどういう意味か?」彼女の気分変化に気づき、啓司は喉仏を上下に動いた。「君が池田辰夫に何かを言ったの?」紗枝が葵を傷つけるのはないと思った。でも、それは池田辰夫が紗枝のために葵を傷つけることはないとは言えなかった。紗枝の喉が急に痛み、目が霧に隔てたような感じとなった。「それで、私が辰夫に彼女を傷つけさせたと思うのか?」 何年も経ったのに、彼女は啓司を諦めたが、誤解されるのは気が済まなかった。女性の悲しい視線は針のように啓司を刺した。彼は薄い唇を軽く開いた。「葵がお母さんを助けたことがあり、桃洲市に死んでもらいたくない。「彼女に不満があれば、僕に直接言って、他の男の手を使わないでほしい」紗枝は直接に彼を押しのけて、彼女の目は空しくなった。「どう
清明節に大雨が降った。病院の入り口。痩せた夏目紗枝の細い手に、妊娠検査報告書が握られていた。検査結果は見なくても分かった。報告書にははっきりと二文字が書かれていた――『未妊』!「結婚して3年、まだ妊娠してないの?」「役立たずめ!どうして子供を作れないの?このままだと、黒木家に追い出されるぞ。そんな時、夏目家はどうするの?」お母さんは派手な服をしていた。ハイヒールで地面を叩きながら、紗枝を指さして、がっかりした表情を見せていた。紗枝の眼差しは空しくなった。心に詰まった言葉が山ほどだが、一言しか口に出せなかった。「ごめんなさい!」「ごめんなどいらない。黒木啓司の子供を産んでほしい。わかったか?」紗枝は喉が詰まって、どう答えるか分からなくなった。結婚して3年、啓司に触られたこと一度もなかった。子供なんかできるはずはなかった。弱気で無能な紗枝が自分と一寸も似てないとお母さんは痛感していた。「どうしても無理があるなら、啓司君に女を見つけてやって、君のいいこと、一つだけ覚えてもらえるだろう!」冷たい言葉を残して、お母さんは帰った。その言葉を信じられなくて紗枝は一瞬呆れて、お母さんの後ろ姿を見送った。実の母親が娘に、婿の愛人を探せっていうのか冷たい風に当たって、心の底まで冷え込んだ。…帰宅の車に乗った。不意にお母さんの最後の言葉が頭に浮かんできて、紗枝の耳はごろごろ鳴り始めた自分の病気が更に悪化したと彼女はわかっていた。その時、携帯電話にショートメールが届いた。啓司からだ。「今夜は帰らない」三年以来、毎日に同じ言葉を繰り返されていた。ここ3年、啓司は家に泊まったことが一度もなかった。紗枝に触れたこともなかった。3年前の新婚の夜、彼に言われた言葉、今でも覚えていた。「お宅は我が家を騙して結婚するなんて、肝が備わってるな!君は孤独死を覚悟してくれよ!」孤独死…3年前、両家はビジネス婚を決めた。双方の利益について、すでに商談済みだったしかし結婚当日、夏目家は突然約束を破り、200億円の結納金を含め、全ての資産を転出した。ここまで思うと、紗枝は気が重くなり、いつも通りに「分かった」と彼に返信した。手にした妊娠検査報告書はいつの間にかしわだらけに握りつぶされた
「啓司、ここ数年とても不幸だったでしょう?「彼女を愛していないのはわかっています。今夜会いましょう。会いたいです」 画面が暗くなっても、紗枝は正気に戻ることができなかった。タクシーを拾って、啓司の会社に行こうとした。窓から外を眺めると、雨が止むことなく降っていた。彼の会社に行くのが好まれないから、行くたびに、紗枝は裏口の貨物エレベーターを使っていた。紗枝を見かけた啓司の助手の牧野原は、「夏目さんいらっしゃい」と冷たそうに挨拶しただけだ。啓司のそばでは、彼女を黒木さんと見て目た人は一人もいなかった。彼女は怪しい存在だった。紗枝が届いてきたスマホを見て、啓司は眉をひそめたた。彼女はいつもこうだった。書類でも、スーツでも、傘でも、彼が忘れたものなら、何でも届けに来たのだ…「わざわざ届けに来なくてもいいと言ったじゃないか」紗枝は唖然とした。「ごめんなさい。忘れました」いつから物忘れがこんなにひどくなったの?多分葵からのショートメールを見て、一瞬怖かったせいかもしれなかった。啓司が急に消えてしまうのではないかと危惧しただろう…帰る前に、我慢できず、ついに彼に聞き出した。「啓司君、まだ葵のことが好きですか?」啓司は彼女が最近可笑しいと思った。ただ物事を忘れたではなく、良く不思議なことを尋ねてきた。そのような彼女は奥さんにふさわしくないと思った。彼は苛立たしげに「暇なら何かやることを見つければいいじゃないか」と答えた。結局、答えを得られなかった。紗枝は以前に仕事を探しに行ったが、結局、黒木家に恥をかかせるという理由で、拒否された。姑の綾子さんにかつて聞かれたことがあった。「啓司が聾者と結婚したことを世界中の人々に知ってもらいたいのか?」障害のある妻…家に帰って、紗枝はできるだけ忙しくなるようにした。家は彼女によってきれいに掃除されていたが、彼女はまだ止まらなかった。こうするしか、彼女は自分が存在する価値を感じられなかったのだ。今日午後、啓司からショートメールがなかった。普通なら、彼は怒っているか、忙しすぎるかのどちらかだったが…夜空は暗かった。紗枝は眠れなかった。ベッドサイドに置いたスマホの音が急になり始めた。気づいた彼女はスマホを手にした。
「君はたぶん今まで恋を経験したこともないだろう。知らないだろうが、啓司が私と一緒にいたとき、料理をしてくれたの。私が病気になった時、すぐにそばに駆けつけた。彼がかつて言った最も温もりの言葉は、葵、ずっと幸せにいてね…「紗枝、啓司に好きって言われたことがあるの?彼によく言われたの。大人気ないと思ったのだが…」紗枝は黙って耳を傾け、過去3年間啓司と一緒にいた日々を思い出した。 彼は一度も台所に入らなかった…病気になった時、一度もケアされなかった。愛するなど一度も言われてなかった。紗枝は彼女を冷静に見つめた。「話は終わったの?」葵は唖然とした。紗枝があまりに冷静だったせいか、それとも目が澄みすぎて、まるで人の心を見透かせたようだ。彼女が離れても葵は正気に戻らなかった。なぜか分からないが、この瞬間、葵は昔に夏目家の援助をもらう貧しい孤児の姿に戻ったように思った。夏目家のお嬢様の目前では、彼女は永遠にただの笑われ者だった…紗枝は葵の言葉に無関心でいられるのでしょうか? 彼女は12年間好きだった男が子供のように他の人を好きになったことが分かった。耳の中は再び痛み始め、補聴器を外した時、血が付いたことに気づいた。いつも通り表面から血を拭き取り、補聴器を置いた。眠れなかった… スマホを手に取り、ラインをクリックした。彼女宛のメッセージは沢山あった。開いてみたら、葵が投稿した写真などだった。最初のメッセージは、大学時代に啓司との写真で、二人は立ち並べて、啓司の目は優しかった。2枚目は2人がチャットした記録だった。啓司の言葉「葵誕生日おめでとう!世界一幸せな人になってもらうぞ!」3枚目は啓司と二人で手を繋いで砂浜での後姿の写真…4枚目、5枚目、6枚目、沢山の写真に紗枝が追い詰められて苦しくなった…彼女はそれ以上見る勇気がなく、すぐに電話を切った。この瞬間、彼女は突然、諦める時が来たと感じた。 この日、紗枝は日記にこんな言葉を書いた。――暗闇に耐えることができるが、それは光が見えなかった場合に限られる。翌日、彼女はいつものように朝食を準備した。しかし、六時過ぎても彼が戻らなかった。その時、紗枝が思い出した。彼は朝食をたべにこないと言ったのだ。啓司が戻らないと思って、一人