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第6話

「それは雨の日だった。休憩中に作業場から女トイレの方で音がするのが聞こえたんだ」

「音を頼りに行くと、武が誰かを殴っていた」

「武は良い子だよ。学校の金持ちの子たちは俺みたいな掃除人を馬鹿にしてるけど、武はいつも俺を人間扱いしてくれて、たまには手伝ってくれた」

「殴っていた相手は森田つばさだ。普段、家が金持ちだからって、学校で横暴に振る舞っていた」

「慌てて武を押さえつけたら、横であの娘、西村桜子が地面に倒れていて、下半身に服を着ていなくて、泣いていた」

「その時やっと理解した。つばさがあの娘をいじめていて、武があんなに強く手を出した理由もわかった。武はあの娘と付き合っていたから」

「俺は警察に通報しようと思ったんだけど、ちょっと気を抜いた隙に、武は俺を振り切って、何度もつばさを蹴りつけ、あいつの下半身を壊してしまったんだ。もし俺がもっと早く止めていたら、武は少年院に送られなかったかもしれない」

「それに、あの久能はおってヤツも。普段、武やつばさと仲が良かったくせに、その時は何もせず、あいつの手下も二人連れてただけだ」

私はその話を聞いて、思わず息を呑んだ。

なるほど、事件の真相はこうだったのか。つばさが武の彼女をいじめ、武がそれを理由に半殺しにしたというわけだ。しかも、そのことで彼は生殖能力に影響を与えるほどの重傷を負わせられたかもしれない。

そして、武はオノクが言っていたような不良ではなかった。清掃員の言う通り、彼はむしろ良い子だったのだ。

その後、少年院を出た後武は行方不明になり、家族には彼の切断された指が送られてきた。

最初は、武の死が義雄に関係しているのではないかと疑ったが、もしつばさが本当に不妊になったら、義雄が彼を殺した理由も納得がいく。

だんだんとこの事件の背後には予想以上に大きな秘密が隠されているように思えてきた。そして、つばさの死はそのほんの氷山の一角にすぎないのではないか。

そして、この新たに浮かび上がった久能はおという人物は一体誰なのか?

調査が元々の目的から外れているような気もしたが、それでも背後に隠された真実を知りたいと思った私は田村に言った。

「田村、警察署に戻ろう」

田村はすでに少し酔っていて、顔が赤くなっていた。「どうしてだよ?警察署は
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