第220話

渡部春香は今夜、高橋優子の言葉に驚かされっぱなしだった。佐藤総裁の名前を直接口にするなんて、命知らずだと思った。

「あなた、まさか佐藤総裁の名前をそのまま呼ぶなんて、命が惜しくないの？」

「彼は武装した悪魔でもなければ観音菩薩でもないのに、なぜ名前を呼んではいけないの？」高橋優子は心の中で、彼の名前を呼ぶだけでなく、彼を殴ったこともあるのよ、と思った。

それに、彼女はサトーグループの株を持っていて、離婚前には佐藤峻介がさらに株を譲渡してくれたことを知っていた。彼女が生きている限り、仕事をしなくても年末の配当だけで十分な収入があったのだ。だから、たかが手数料のために江口総裁を喜ばせる必要なんてなかった。

「あなた今は若いから現実の厳しさを知らないのよ。私の年齢になれば、どれほど不自由かがわかるわ。もし、これまで私があなたにきつく当たったことを気にしているなら、謝るわ。私もこの立場に立つためには仕方がなかったの」

これで強引に説得ができなければ、今度は被害者ぶるのか？さすが営業のプロ、言葉の使い方が上手かった。

「優子、もしかしてあなたの彼氏を気にしているの？実はこういうことは普通の需要と供給の関係なのよ。あなたの彼氏だって外では必ずしも清廉潔白ではないはず。男が遊びを必要とするように、私たち女性だって同じよ。プラトニックな愛なんて、本の中でしか存在しない。誰の結婚も恋愛も問題がないわけじゃない。女性が深い愛情にこだわりすぎるのは良くないわ。お金こそが一番大切なものなのだから」

渡部春香はため息をつきながら言った。「優子、私はあなたを助けたいと思っているの。私たち女性は自分自身の力で成功するのが一番確実なのよ。この世の中、男なんて当てにならないわ」

「その通りですね、渡部組長」

高橋優子の澄んだ目を見つめながら、渡部春香は期待に満ちた表情を浮かべた。しかし、高橋優子は彼女の肩に軽く手を置いて言った。「だから私はあなたを応援します。あなたがトラブルに巻き込まれることなく、自己の力でどんどん高みへ登っていくことを。今夜はお疲れさま、江口総裁の油っぽいお腹には、どうかたくさんの寛容を持って対応してくださいね」

散々話しても、高橋優子は全く動じない。渡部春香はもう忍耐の限界に達していた。

「高橋優子、あなたは自分が何者だと思っているの？江口総裁を見下す資格