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第173話

松沢幸子は高橋優子の顔が青ざめているのを見て、急いで彼女の携帯電話を脇に置いた。

「奥様、こんなものを見てどうするのですか?見ないほうがいいですよ。もっと楽しいものを見てください。最近デビューしたアイドルグループ、本当にかっこいいんですよ」

高橋優子は心に少し陰鬱な気分があったが、松沢幸子の一言で笑ってしまった。「そんなことを詳しく知るんですか?」

松沢幸子は肩に手を置いて、「奥様、人は誰でも失敗するものです。完璧な人なんていないんです。間違いを犯して学ぶんですよ。他人の過ちで自分を罰する必要はありません」

高橋優子は少し驚き、松沢幸子が自分の味方をしてくれるとは思わなかった。

「若旦様があなたと離婚したなら、彼女とも離婚することができる。だから、もう少し待っていてください。」

高橋優子は後の言葉を聞きたくなくて、話を遮った。「うん、わかったわ。夕食の材料を用意して、今夜は私が料理をするわ」

松沢幸子は目を輝かせた。高橋優子が佐藤峻介に対して自ら好意を示すのは珍しいことだった。

彼女の目には、夫婦は元のままでいるほうが良かった。佐藤峻介は一時的な気の迷いで、松本里美とは長続きしないだろうと思っていた。

「わかりました。若旦様に電話して伝えます」

高橋優子は携帯電話を切り、立ち上がった。顔には冷淡な表情が浮かんでいた。

この二年間を振り返り、高橋家は倒産し、父親は意識を失ったままだった。

今日の彼女がこうなったのは、佐藤峻介のせいだけでなく、彼女自身が愛に溺れ、周囲のすべてを忘れたせいでもあった。そのために隙を見せてしまったのだ。

残された時間は多くなかった。彼女はこれ以上、佐藤峻介との争いに時間を浪費するわけにはいかなかった。

刃を収め、仮面をつけることも一つの成長だ。

総裁オフィス。

すべての人は重苦しい雰囲気の中で働いていた。誰もが息を潜め、佐藤峻介に怒りを買わないようにしていた。

森本進は厚い書類を手に持ち、佐藤峻介のそばに立っていた。彼の眉間には朝から皺が寄っていた。

「佐藤総裁、あなたと松本さんの婚約ニュースがネット上に広がっています」

佐藤峻介は書類に目を落として黙っていたが、森本進は彼が書類に集中していないことを知っていた。

彼はこのページを五分間も見ていたが、書類が逆さまになっていることに気づいていなかった。

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