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第217話 どこへ行くつもりだ?

 紀美子の涙は一瞬で溢れ出し、「佑樹、本当にあなたなの?」と叫んだ。

 彼女は信じられなかった。息子がまだ無事に彼女の前に立っているなんて。

 確かに記憶しているのは、佑樹が高所から落下したこと……

 「ママ」佑樹の端正な顔に少しの困惑が浮かび、「何を言っているの?僕じゃなかったら誰だって言うの?」

 確かな返答を得た紀美子は、急いで涙を拭った。

 「何でもないよ、佑樹。ママが変なこと言ってしまったの。すぐに行くよ」

 「早く来て、ママ」

 紀美子は大きく頷き、足を踏み出して佑樹の方へ歩き出した。

 しかし、しばらく歩いても、どうしても佑樹に近づけないことに気づいた!

 紀美子は恐怖に駆られ、顔を上げた。「佑樹……」

 「ママ、遅いよ、早くして」

 紀美子は深呼吸をし、佑樹の方へ走り出した。

 だが、前に進むほど、佑樹の姿はどんどん遠ざかっていった。

 「ママ……」佑樹の黒い瞳に失望の色が浮かんでいた。「ママ、どうしてまだ来ないの?」

 「ママ来たわよ!」紀美子は叫び返した。「動かないで、ママを待っていて」

 「ママ、もう遅い……」

 佑樹の声はどんどん弱まっていき、小さな姿が突然消えてしまった。

 「佑樹??」

 「佑樹!!!!」

 病室の中。

 紀美子は驚きのあまりベッドから飛び起きた。

 彼女は身体を震わせ、顔色が蒼白で大きく息を切らしていた。

 叫び声がソファーで眠っていた佳世子を目覚めさせた。

 様子を見て、佳世子は急いで駆け寄った。

 「紀美子?目が覚めたの?悪夢を見たの?」

 声を聞いて、紀美子はぼんやりした意識を徐々に取り戻し、硬直したように佳世子を見上げた。

 「佳世子……」

 紀美子が口を開くと、頭の中に佑樹の無惨な姿が浮かび上がった。

 彼女の瞳は収縮し、急いで佳世子の腕を掴んだ。「佑樹はどこ?!彼はどこにいるの?!」

 佳世子は落ち着かせようと、「紀美子、慌てないで、話を聞いてくれる?」と言った。

 紀美子は心の中が乱れていた。「佑樹は死んでしまったの……?」

 紀美子の目は赤くなり、感情が次第に制御不能になっていった。「答えて!佑樹は死んでしまったの?!」

 「紀美子!そんなこと言わないで!佑樹は死んでいないよ!」佳世子は説明した。

 「嘘をついているんでしょ?!見たのよ!佑
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